浅草木馬館昼の部観劇マニュアル (浪曲火曜亭付き)
(おことわり)
浅草木馬館は2014年3月にリニューアルオープンしました。
本ブログは改修前の木馬館を取材した内容となっております。
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浅草は楽しい。
その楽しさを大衆演劇の魅力とともにお伝えするレポートの続編です。
「浅草木馬館昼の部観劇マニュアル」と題しているとおり、木馬館で昼の部公演を観た日の日記です。夜は浅草にある日本浪曲協会で浪曲を楽しみましたのでそれも合わせてお伝えします。
木馬館夜の部観劇については、姉妹編レポート「大衆演劇・浪曲・講談を1日で楽しむ方法」をご覧ください。
今回のレポートも、「大衆演劇って何?」という初心者の方へのガイドとなるよう、特に舞台に興味がある若い方に読んでいただくことを想定して、「大衆演劇ワンポイント情報」を交えながらお伝えしていきたいと思います。
木馬館の昼の部を観ようと決めましたら、当日は10時前に木馬館に着くことを目指して家を出ましょう。

浅草気分を味わうのならやはり雷門から仲見世を通って浅草寺前へ抜けるルート。
仲見世は混んでいるので私はたいてい空いている裏道を通っています。
木馬館へのルート詳細については姉妹編レポートをご覧ください。

木馬館に着きました。2階が大衆演劇木馬館、1階が木馬亭。
私は銀座線田原町駅から歩いて行くこともあります。
私の歩くスピードだと、銀座線田原町駅から木馬館まで9分、銀座線浅草駅から木馬館まで7分です。
ちなみにこの写真には間違い探しがあります。
右に見える看板の羽子板の文字が「駐輸禁止」になっています。正しくは「駐輪」でしょう。

建物入口付近にチラシが置いてあります。
【ワンポイント:チラシ】大衆演劇では、一般的な演劇で配られるような「当日パンフレット」というものはありません。劇団員の顔と名前は何度も通いながら見て覚えるものなのです。木馬館の場合は、受付近くに役者の名前が貼り出されています。この写真をとるなりして、なるべく役者の名前を覚えるようにしましょう。役者を覚えるとより楽しく観劇することができます。

木馬館脇の小路にベンチがあり、すでにそこに人が並んで座っています。
木馬館では朝の10時に昼の部公演の整理券を配付します。その整理券を入手するために並ぶのです。

早く来たかいがあって6番の整理券を入手できました。手作りの整理券。
古くなった木馬亭の浪曲番組表の再利用でした。
昼の部の入場は11時。10時50分に集合して整理券順に並びます。それまで自由です。

朝の珈琲を飲みたくなりました。浅草にはたくさんの喫茶店があります。
この日は「ローヤル珈琲店」に入りました。

(写真左)コーヒーと鎌倉山チーズケーキをいただきました。
隣のテーブルではご婦人連が大衆演劇トークをしていました。ここは木馬館から遠くないので大衆演劇ファンもよく使うのでしょう。美濃瓢吾「浅草木馬館日記」に、着流しに下駄ばきの青年浪曲師が木馬亭にいたところファンの女の子2人に誘い出されてローヤルに入ったというくだりがあります。その印象が強く、どうも私は木馬館とローヤルはセットのような気がしてしまうのです。
ローヤルの名物をご紹介しておきしょう。(写真右)のホットサンド。テレビ「どっちの料理ショー」で紹介され勝利したとか。これを初めて食べたときの感動といったら。美味しいパン、絶妙の焼き加減。休日の朝、家を出かける前に「今日はローヤルでアイスコーヒーとホットサンドを頼もう」と思うだけで私の心は浮かれてくるのです。

10時50分を過ぎると、木馬館の従業員がお客さんを整理番号順に整列させます。
これは別の日の写真ですが、お客さんが多いとこのように木馬館の裏までずーっと列がのびます。

11:00に入場開始。ここで木戸銭1600円を払ってチケットを受け取ります。そのまま階段を上って2階へ。
階段を上りきったところにいる従業員のおばちゃんにチケットを渡して劇場に入ります。
受付すぐ横に今日の芝居の外題(演目)と舞踊ラストショーのタイトルが掲示されます。
2019年に木戸銭は1700円に改定されました
【ワンポイント:外題】常連さんが多い大衆演劇ではお芝居の演目は毎日変わります。劇団はたくさんのレパートリー(どの劇団でもやる定番ものからオリジナルまで)を持っていて、その日にどの芝居をやるかはたいてい直近に決めています。行ってみないと外題がわからないところにちょっとしたワクワクドキドキ感があります。

木馬館の様子。左奥に見えるのが出入口。
見やすいイイ席はすでに予約席として確保されています。それ以外は自由席。
木馬館では、どのあたりの席をとろうかと迷うことが多いです。
客席を上から見たとします。タテで見ると前から3列目から数列、ヨコで見ると中央よりの数列が予約で埋まっている可能性が高いです。つまり客席の真ん中のゾーンが予約指定席が多くその外周が自由席といったイメージ。
早い整理券を持っているお客さんは、真ん中ゾーンの予約が入っていない席をみつけて座ります。それ以外のお客さんは外周のどのあたりに座するかをその場の判断で決めなくてはなりません。
通常の劇場ですと、予約席は舞台に近い一番前の席から埋まることが多いです。しかし木馬館は3列目以降が予約席となっています。それはなぜか。

木馬館は舞台が高く、最前列はこのようにかなり上を見上げるかたちになります。また近すぎて舞台全体を見渡せない。木馬館の最前列は不人気席なのです。やっぱり役者のいい表情とポーズを見たかったら、フラットなアングルがいいでしょう。
私は役者の表情よりも大衆演劇ならではの臨場感を楽しむタチなので、舞台に近い2列目をまず狙います。
木馬館では常に場内誘導の従業員が劇場内にいます。初心者の方は従業員さんのおすすめに従って座ればよいでしょう。
開演は12時です。
多くの大衆演劇場では、お客さんは入場してから一時退出をしないのが普通です。
しかしここは浅草。時間つぶしするトコロはいくらでもあります。木馬館では入場して席を確保した後、座席に荷物やらハンケチやらを置いて一時退出するお客さんが多いです。
昼の部は12:00~15:30です。
席をとったら開演時間までに昼食をとるというのが私のパターン。
入るときにチケットを渡したおばちゃんから「外出券」をもらって外に出ます。

お昼は和食と決めました。「浅草木馬館日記」には「春」という有名な釜飯屋さんがよく出てきます。春は11時から営業していますが、お客さんが来てから炊き始めるのでゆっくりと食事できない。電話で予約しておくとあらかじめ炊いておいてくれるので待たずに食べることができますが、それもしていなかったので別の店にします。
この日は木馬館の近くにある大衆食堂の「水口」に行きました。

ここの「炒り豚定食」がとても美味しいのです。たくさん入っている玉ねぎの歯ごたえ、ほんのりとまろやかな甘みが広がるソース。郷愁を誘う昭和な味です。お新香、お椀も美味しい。外食といえばこってりラーメンばかり食べている若者に是非味わってほしい定食です。
食事を終え、ROXの地下で缶チューハイを買って木馬館に戻りました。
このように木馬館昼の部観劇に際しては、
・10時整理券配付~11時入場
・11時入場~12時開演
の2回、小一時間の自由時間が発生します。この時間を浅草でどう過ごすかを考えるのがまた楽しい。
独りで自由であれば、そして暑い日でなければ、浅草界隈をぶらぶら散歩するだけで楽しく時間をつぶせます。
ですから木馬館に行く際は「大衆演劇を楽しみに行く」というより「浅草を楽しみに行く」というつもりで、ひいては「人生をのんびり楽しむ」くらいの心持ちでお出かけするのがよろしいのではないでしょうか。
昼の部は12時ジャストに開演します。余裕をもって木馬館に戻りましょう。
公演の構成は、
第一部 ミニショー 20~30分
第二部 お芝居 60分くらい
第三部 グランドショー 70分~
が定番です。同じ劇団でも日によってプログラムがかわる場合があります。
休憩時間には女性トイレには長蛇の列ができます。開演前にトイレを済ませておきましょう。
【ワンポイント:ショー】第一部と第三部でやることは同じです。歌(演歌・歌謡曲・J-POPなど)に合わせて役者さんが踊ります。私が思うに「大衆演劇ファン度」と「ショーを楽しめる度」とは比例関係にあります。依存症のごとく、大衆演劇に通ってショーに親んでいくうちに、自らの心身がショーの織り成す世界に馴染んでくるのです。
初めて大衆演劇を観る若い方はショーを見てこれをどう楽しめばよいのだろうと思うかもしれません。
最近は小劇場系の演劇では芝居中にダンスを取り入れることが多くなりました。私は小劇場演劇のダンスを見ては「これ大衆演劇で使えるな」とか、舞踊ショーを見ては「小演劇でもこういう踊りをとりいれればいいのに」などと勝手な感想をいだいています。大衆演劇を初めて見る若い演劇人はそのような目線でショーを見てみてはいかがでしょうか。特に、「掌・指先の使い方」「重心の低さ」は参考になるのではないでしょうか。大衆演劇には独特の「和洋折衷のナルシスティックな仕草」もあります。これが得意な役者は見ていてハマるかもしれません。
以下、近江飛龍劇団の舞踊ショーの様子をご紹介します。
全国に100以上の大衆演劇劇団があります。その世界の中で一番笑いのセンスがあると私が思っているのが近江飛龍座長です。

舞踊ショー開幕。「三度笠に縞のマント」の股旅姿。これを観ないと大衆演劇場に来た気がしません。
【ワンポイント:博徒】大衆演劇は時代劇。特に江戸時代~明治初期の博徒が登場します。博徒は芝居の中では「やくざ」と呼ばれ、まっとうな仕事をしている「かたぎ」とは相反する存在として扱われます。やくざは「〇〇一家」という徒党を組んで賭場(博打はもちろん公にはご法度)を管理しており、たいてい縄張り争いのため近隣の一家とは敵対関係にあります。縄張りの賭場を管理するトップつまり親分は「貸元」とも云いその下に「代貸」「三下」がいます。
一方、一家に属さない一匹狼の博徒もいます。「旅鴉(たびがらす)」などと自称して諸国を股にかけて旅をします。こういうやくざを主人公にした「股旅もの」の芝居がかつてたいへん人気をよんで、今でも「旅するやくざ」を扱った芝居は大衆演劇で定番となっています。大衆演劇を観るにあたって予備知識として知っておきたい概念に「一宿一飯の恩」というものがあります。やくざの旅人がその土地の親分を訪ねてきた場合、親分はこれを快く受け入れ宿泊や食事の世話をします。旅人は一度その親分に恩を受けたら、命の危険を伴うことがあっても親分をたすけなければなりません。この「一宿一飯の恩」から生じる葛藤がよく大衆演劇の題材となります。ついでに「股旅もの」の生みの親長谷川伸の名作戯曲「沓掛時次郎」から名せりふを抜粋しておきましょう。
時次郎はとある一家の世話になり、その一家と敵対する中ノ川一家の三蔵を斬りに行くことになった。三蔵の家の戸口でのやり取り-
時次郎「あっしは旅にんでござんす。一宿一飯の恩があるので、怨みつらみもねえお前さんに敵対する、信州沓掛の時次郎という下らねえ者でござんす」
三蔵「左様でござんすか。手前もしがない者でござんす。ご叮嚀なお言葉で、お心のうちは大抵みとりまするでござんす」
時次郎「お見あげ申しますでござんす。勝負は一騎討ち。他人まぜなしで、潔くいたしとうござんす」
三蔵「お言葉、有難う存じます」
長谷川伸の美しくかっこいい科白(せりふ)にしびれます。こんな科白を舞台で云ってみたい。
残念ながら最近の大衆演劇では「沓掛時次郎」をあまりやらなくなってしまったようです。

さて、舞踊ショーでは座長を中心に劇団員の皆さんがいろんな衣装で登場します。
【ワンポイント:茶髪ロン毛】和装&茶髪ロン毛(長髪)、これが舞踊ショーのスタンダードなコスチューム。私は初めて大衆演劇を観たとき「なんで和服なのにこんなカツラをかぶるのか?」とたいへん違和感を感じていました。しかし慣れとは恐ろしいもので、今では舞踊ショーで普通の黒髪のカツラだと物足りなさを感じてしまう。しばらく大衆演劇場に行っていないと、あの和装&茶髪ロン毛がむしょうに見たくなってくるのです。

和装ばかりでなく、キラキラ系やシースルーもよくでてきます。賑やかで派手な衣装・シブい和服・コミカルな衣装、あの手この手でお客さんを楽しませてくれます。こっちは決して望んていないのに、小太りな座長が半裸にシースルー衣装で出てきたりします。
ところで、ここに紹介している写真は公演中に私が撮影したものです。
【ワンポイント:写真】大衆演劇のお客さんは、座員さんのファンの女性が多いです。公演中に舞台上の役者さんを撮影する方を客席のあちらこちらで見かけるでしょう。全国の大衆演劇場でたいてい共通している撮影のルールは次のとおりです。
・芝居…撮影いっさい不可
・ショー…写真のみ撮影可(フラッシュ不可、動画不可)
このブログでも公演中の写真を多く載せています。私はたいてい「フラッシュなし、シャッタースピード固定(80~160)」に設定して露出を調整しながら撮影しています。
大衆演劇観劇には是非デジカメを持っていきましょう。

近江飛龍座長の女形
【ワンポイント:女形】大衆演劇の舞踊ショーでは女形が必ず登場します。特に「座長の女形」は必ず行われます。座長本人が「俺は太っているし似合わないし女形をやりたくない」と思っていても(実際ブログで女形はキライだとつぶやく座長もちらほらいます)やらねばならないのです。座長がどこかで女形で出演する、というのはどこで定めているわけでもない決まり事となっています。
場末感の漂う客の少ない大衆演劇場で香水の匂いを漂わせながら役者が女形で踊りを舞っている様が私は好きです。その光景に日本独特の芸能である大衆演劇の「らしさ」を強く感じます。

逆に、女優さんの「立ち役(男役)」も大衆演劇の見どころのひとつ。ただしこれは必ず見られるとは限りません。
15時30分頃公演は終了。お客さんは一斉に帰ります。それに先駆けて座員さんが1階に降りてゆきます。

大衆演劇の文化のひとつに「送り出し」があります。木馬館の場合だと、座長が階段の下に立って基本的にすべてのお客さんと握手をしてお礼を述べます。座員さんも道端に出てお客さんをお見送りします。(上の写真ではその雰囲気が伝わっていませんが、このあたりに座員さんがたくさんでてきます)
最近は座長が「全員と握手」をしないこともみかけるようになりました。
以上で木馬館昼の部観劇終了です。
せっかく浅草に来たのですからこの後も楽しんで帰りましょう。
この日は火曜日。毎週火曜日の夜は浅草で浪曲を楽しむことができます。
近くにある日本浪曲協会という場所で19時から「浪曲火曜亭」という会が催されるのです。
私は大衆演劇→浪曲というハシゴをすることに決めていました。
3時間ほどの自由時間ができました。浅草界隈でのんびり時間をつぶすことにします。

浅草をぶらぶらしているとつい寄ってしまうのが、ROX(浅草六区にあるショッピングビル)の向かいにある激安スポーツウェア店「SPORTS ZYUEN」
ただでさえ安い表示価格の半額で買えたりします。舞台をやっている学生は稽古着を買うのに最適な店ではないでしょうか。
※スポーツジュエン浅草店は2017年に上野・アメ横エリアへ移転・統合しました。

合羽橋道具街に来ました。ご存じ食器具などを扱う日本一の道具街です。浅草界隈はどうしても休日に来ることが多いのですが、合羽橋では多くの店がお休みしています。この日は平日だったので合羽橋のいろんな店に立ち寄りながら散策することとしました。

合羽橋では業務用の食材を売っている店もあります。
私はスパイス大好きで、我が家ではスパイスの消費が速いので、合羽橋で大きい袋を買っています。
ここ合羽橋では普通のデパートで見かけない道具をたくさん見つけることができます。この日は、パン切り専用ナイフと、パン切り専用ボードを買いました。我が家ではホームベーカリーを購入したばかりだったので、ちょうどいいものが見つかりました。

となりの墨田区に東京スカイツリーができて、浅草を散歩しているとふと目に入ります。
左に看板が見えている「来集軒」は、小沢昭一「ぼくの浅草案内」(1978年発行)で紹介されていて知った中華料理店。「東京の味。土地の人たちでいつも満員」と書いてあります。店内は芸人さん?のサインでいっぱい。営業時間が12:00~19:00(火曜日定休日)で、大衆演劇観劇とくみあわせにくいのが残念。

浪曲は19時からですので、それまでに夕食を済ませておきます。
浅草で洋食と云えば「うますぎて申し訳ないス!」の「ヨシカミ」。
休日はお店の外に並んでいる人をよく見かけます。平日のこの時間は空いているのでしょう、ここで夕食をとることにしました。

ハヤシライスをいただきました。とても濃厚なソース。このハヤシライスはひと匙ひと匙味わいながらゆっくり食べたい。
雷門から田原町駅に向かう界隈に日本浪曲協会があります。
毎週火曜日にここの広間で行われる「浪曲火曜亭」では、浪曲師2名が出演しそれぞれ1席披露します(1席は30分弱)。木戸銭は1,500円です。

これが日本浪曲協会の建物。18時30分の開場時間に到着。

ここが入口。いわゆる寄席・演芸場でないので入りずらいかもしれません。でも大丈夫、入ってしまえばアットホームな雰囲気です。扉に入るとすぐ玄関で、右手に受付があります。木戸銭を払って、靴を脱いで、畳敷きの広間にあがります。ここが会場。座布団が並んでいるので好きなところに座って待ちましょう。
お手洗いは正面の裏の廊下にあります。
実はこの広間にスゴい額が何気なく掛かっています。「桃中軒」と大きく書かれた額の署名をみると何と「孫文」の名が。孫文は中国の辛亥革命の英雄。その書がなぜここに?
腐敗した清朝政府の打倒を志した孫文は、蜂起に失敗して清朝政府から賞金付きの指名手配となりました。それからは亡命生活を送り、多くの時期拠点を日本におきました。孫文の思想に共鳴し、革命活動を助けた日本人に宮崎滔天がいました。辛亥革命の最初の蜂起が失敗した際に、革命に協力していた日本人志士の間に不和が生じて、滔天はいっとき革命活動から距離をおき、何を思ったか浪曲師桃中軒雲右衛門の弟子となりました。この後雲右衛門は義士伝があたって大人気となり、今では浪曲中興の祖と呼ばれています。孫文から絶大な信頼を得ていた滔天はその後も孫文の活動を助けました。
あるとき孫文は芝にある桃中軒雲右衛門の家を訪ねました。雲右衛門の馬鹿話に大笑いした孫文は雲右衛門に「今日は生命の洗濯をした。君は芸人の天下を取れ、我等の革命とどちらが先に成功するか競争しよう」と言ったそうです。あの額はそのとき書かれたのかもしれません。
木馬亭での浪曲ではマイクが使われます。火曜亭は、浪曲師とお客さんとの距離が近いのでマイクはありません。
浪曲2席が終わると浪曲師とお客さんとの茶話会が始まります。座布団が脇に寄せられて、大きなテーブルが中央に置かれます。浪曲師自らがお茶やお菓子を配ったりしてセッティングしてくれます。浪曲師からよもやま話を聞くことができる楽しいひととき。
このように物理的・心理的に浪曲師とお客さんとの距離の近いところが浪曲火曜亭の魅力です。
茶話会が終わって帰路につきました。これで日記を終わります。
浅草は本当に楽しい場所です。
このブログを読んでくださった若い世代の皆さん、
たまには大衆演劇を楽しみながら、休日をゆっくり浅草で過ごしてみませんか。
浅草木馬館は2014年3月にリニューアルオープンしました。
本ブログは改修前の木馬館を取材した内容となっております。
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浅草は楽しい。
その楽しさを大衆演劇の魅力とともにお伝えするレポートの続編です。
「浅草木馬館昼の部観劇マニュアル」と題しているとおり、木馬館で昼の部公演を観た日の日記です。夜は浅草にある日本浪曲協会で浪曲を楽しみましたのでそれも合わせてお伝えします。
木馬館夜の部観劇については、姉妹編レポート「大衆演劇・浪曲・講談を1日で楽しむ方法」をご覧ください。
今回のレポートも、「大衆演劇って何?」という初心者の方へのガイドとなるよう、特に舞台に興味がある若い方に読んでいただくことを想定して、「大衆演劇ワンポイント情報」を交えながらお伝えしていきたいと思います。
木馬館の昼の部を観ようと決めましたら、当日は10時前に木馬館に着くことを目指して家を出ましょう。

浅草気分を味わうのならやはり雷門から仲見世を通って浅草寺前へ抜けるルート。
仲見世は混んでいるので私はたいてい空いている裏道を通っています。
木馬館へのルート詳細については姉妹編レポートをご覧ください。

木馬館に着きました。2階が大衆演劇木馬館、1階が木馬亭。
私は銀座線田原町駅から歩いて行くこともあります。
私の歩くスピードだと、銀座線田原町駅から木馬館まで9分、銀座線浅草駅から木馬館まで7分です。
ちなみにこの写真には間違い探しがあります。
右に見える看板の羽子板の文字が「駐輸禁止」になっています。正しくは「駐輪」でしょう。

建物入口付近にチラシが置いてあります。
【ワンポイント:チラシ】大衆演劇では、一般的な演劇で配られるような「当日パンフレット」というものはありません。劇団員の顔と名前は何度も通いながら見て覚えるものなのです。木馬館の場合は、受付近くに役者の名前が貼り出されています。この写真をとるなりして、なるべく役者の名前を覚えるようにしましょう。役者を覚えるとより楽しく観劇することができます。

木馬館脇の小路にベンチがあり、すでにそこに人が並んで座っています。
木馬館では朝の10時に昼の部公演の整理券を配付します。その整理券を入手するために並ぶのです。


早く来たかいがあって6番の整理券を入手できました。手作りの整理券。
古くなった木馬亭の浪曲番組表の再利用でした。
昼の部の入場は11時。10時50分に集合して整理券順に並びます。それまで自由です。

朝の珈琲を飲みたくなりました。浅草にはたくさんの喫茶店があります。
この日は「ローヤル珈琲店」に入りました。


(写真左)コーヒーと鎌倉山チーズケーキをいただきました。
隣のテーブルではご婦人連が大衆演劇トークをしていました。ここは木馬館から遠くないので大衆演劇ファンもよく使うのでしょう。美濃瓢吾「浅草木馬館日記」に、着流しに下駄ばきの青年浪曲師が木馬亭にいたところファンの女の子2人に誘い出されてローヤルに入ったというくだりがあります。その印象が強く、どうも私は木馬館とローヤルはセットのような気がしてしまうのです。
ローヤルの名物をご紹介しておきしょう。(写真右)のホットサンド。テレビ「どっちの料理ショー」で紹介され勝利したとか。これを初めて食べたときの感動といったら。美味しいパン、絶妙の焼き加減。休日の朝、家を出かける前に「今日はローヤルでアイスコーヒーとホットサンドを頼もう」と思うだけで私の心は浮かれてくるのです。

10時50分を過ぎると、木馬館の従業員がお客さんを整理番号順に整列させます。
これは別の日の写真ですが、お客さんが多いとこのように木馬館の裏までずーっと列がのびます。

11:00に入場開始。ここで木戸銭1600円を払ってチケットを受け取ります。そのまま階段を上って2階へ。
階段を上りきったところにいる従業員のおばちゃんにチケットを渡して劇場に入ります。
受付すぐ横に今日の芝居の外題(演目)と舞踊ラストショーのタイトルが掲示されます。
2019年に木戸銭は1700円に改定されました
【ワンポイント:外題】常連さんが多い大衆演劇ではお芝居の演目は毎日変わります。劇団はたくさんのレパートリー(どの劇団でもやる定番ものからオリジナルまで)を持っていて、その日にどの芝居をやるかはたいてい直近に決めています。行ってみないと外題がわからないところにちょっとしたワクワクドキドキ感があります。

木馬館の様子。左奥に見えるのが出入口。
見やすいイイ席はすでに予約席として確保されています。それ以外は自由席。
木馬館では、どのあたりの席をとろうかと迷うことが多いです。
客席を上から見たとします。タテで見ると前から3列目から数列、ヨコで見ると中央よりの数列が予約で埋まっている可能性が高いです。つまり客席の真ん中のゾーンが予約指定席が多くその外周が自由席といったイメージ。
早い整理券を持っているお客さんは、真ん中ゾーンの予約が入っていない席をみつけて座ります。それ以外のお客さんは外周のどのあたりに座するかをその場の判断で決めなくてはなりません。
通常の劇場ですと、予約席は舞台に近い一番前の席から埋まることが多いです。しかし木馬館は3列目以降が予約席となっています。それはなぜか。

木馬館は舞台が高く、最前列はこのようにかなり上を見上げるかたちになります。また近すぎて舞台全体を見渡せない。木馬館の最前列は不人気席なのです。やっぱり役者のいい表情とポーズを見たかったら、フラットなアングルがいいでしょう。
私は役者の表情よりも大衆演劇ならではの臨場感を楽しむタチなので、舞台に近い2列目をまず狙います。
木馬館では常に場内誘導の従業員が劇場内にいます。初心者の方は従業員さんのおすすめに従って座ればよいでしょう。
開演は12時です。
多くの大衆演劇場では、お客さんは入場してから一時退出をしないのが普通です。
しかしここは浅草。時間つぶしするトコロはいくらでもあります。木馬館では入場して席を確保した後、座席に荷物やらハンケチやらを置いて一時退出するお客さんが多いです。
昼の部は12:00~15:30です。
席をとったら開演時間までに昼食をとるというのが私のパターン。
入るときにチケットを渡したおばちゃんから「外出券」をもらって外に出ます。

お昼は和食と決めました。「浅草木馬館日記」には「春」という有名な釜飯屋さんがよく出てきます。春は11時から営業していますが、お客さんが来てから炊き始めるのでゆっくりと食事できない。電話で予約しておくとあらかじめ炊いておいてくれるので待たずに食べることができますが、それもしていなかったので別の店にします。
この日は木馬館の近くにある大衆食堂の「水口」に行きました。

ここの「炒り豚定食」がとても美味しいのです。たくさん入っている玉ねぎの歯ごたえ、ほんのりとまろやかな甘みが広がるソース。郷愁を誘う昭和な味です。お新香、お椀も美味しい。外食といえばこってりラーメンばかり食べている若者に是非味わってほしい定食です。
食事を終え、ROXの地下で缶チューハイを買って木馬館に戻りました。
このように木馬館昼の部観劇に際しては、
・10時整理券配付~11時入場
・11時入場~12時開演
の2回、小一時間の自由時間が発生します。この時間を浅草でどう過ごすかを考えるのがまた楽しい。
独りで自由であれば、そして暑い日でなければ、浅草界隈をぶらぶら散歩するだけで楽しく時間をつぶせます。
ですから木馬館に行く際は「大衆演劇を楽しみに行く」というより「浅草を楽しみに行く」というつもりで、ひいては「人生をのんびり楽しむ」くらいの心持ちでお出かけするのがよろしいのではないでしょうか。
昼の部は12時ジャストに開演します。余裕をもって木馬館に戻りましょう。
公演の構成は、
第一部 ミニショー 20~30分
第二部 お芝居 60分くらい
第三部 グランドショー 70分~
が定番です。同じ劇団でも日によってプログラムがかわる場合があります。
休憩時間には女性トイレには長蛇の列ができます。開演前にトイレを済ませておきましょう。
【ワンポイント:ショー】第一部と第三部でやることは同じです。歌(演歌・歌謡曲・J-POPなど)に合わせて役者さんが踊ります。私が思うに「大衆演劇ファン度」と「ショーを楽しめる度」とは比例関係にあります。依存症のごとく、大衆演劇に通ってショーに親んでいくうちに、自らの心身がショーの織り成す世界に馴染んでくるのです。
初めて大衆演劇を観る若い方はショーを見てこれをどう楽しめばよいのだろうと思うかもしれません。
最近は小劇場系の演劇では芝居中にダンスを取り入れることが多くなりました。私は小劇場演劇のダンスを見ては「これ大衆演劇で使えるな」とか、舞踊ショーを見ては「小演劇でもこういう踊りをとりいれればいいのに」などと勝手な感想をいだいています。大衆演劇を初めて見る若い演劇人はそのような目線でショーを見てみてはいかがでしょうか。特に、「掌・指先の使い方」「重心の低さ」は参考になるのではないでしょうか。大衆演劇には独特の「和洋折衷のナルシスティックな仕草」もあります。これが得意な役者は見ていてハマるかもしれません。
以下、近江飛龍劇団の舞踊ショーの様子をご紹介します。
全国に100以上の大衆演劇劇団があります。その世界の中で一番笑いのセンスがあると私が思っているのが近江飛龍座長です。

舞踊ショー開幕。「三度笠に縞のマント」の股旅姿。これを観ないと大衆演劇場に来た気がしません。
【ワンポイント:博徒】大衆演劇は時代劇。特に江戸時代~明治初期の博徒が登場します。博徒は芝居の中では「やくざ」と呼ばれ、まっとうな仕事をしている「かたぎ」とは相反する存在として扱われます。やくざは「〇〇一家」という徒党を組んで賭場(博打はもちろん公にはご法度)を管理しており、たいてい縄張り争いのため近隣の一家とは敵対関係にあります。縄張りの賭場を管理するトップつまり親分は「貸元」とも云いその下に「代貸」「三下」がいます。
一方、一家に属さない一匹狼の博徒もいます。「旅鴉(たびがらす)」などと自称して諸国を股にかけて旅をします。こういうやくざを主人公にした「股旅もの」の芝居がかつてたいへん人気をよんで、今でも「旅するやくざ」を扱った芝居は大衆演劇で定番となっています。大衆演劇を観るにあたって予備知識として知っておきたい概念に「一宿一飯の恩」というものがあります。やくざの旅人がその土地の親分を訪ねてきた場合、親分はこれを快く受け入れ宿泊や食事の世話をします。旅人は一度その親分に恩を受けたら、命の危険を伴うことがあっても親分をたすけなければなりません。この「一宿一飯の恩」から生じる葛藤がよく大衆演劇の題材となります。ついでに「股旅もの」の生みの親長谷川伸の名作戯曲「沓掛時次郎」から名せりふを抜粋しておきましょう。
時次郎はとある一家の世話になり、その一家と敵対する中ノ川一家の三蔵を斬りに行くことになった。三蔵の家の戸口でのやり取り-
時次郎「あっしは旅にんでござんす。一宿一飯の恩があるので、怨みつらみもねえお前さんに敵対する、信州沓掛の時次郎という下らねえ者でござんす」
三蔵「左様でござんすか。手前もしがない者でござんす。ご叮嚀なお言葉で、お心のうちは大抵みとりまするでござんす」
時次郎「お見あげ申しますでござんす。勝負は一騎討ち。他人まぜなしで、潔くいたしとうござんす」
三蔵「お言葉、有難う存じます」
長谷川伸の美しくかっこいい科白(せりふ)にしびれます。こんな科白を舞台で云ってみたい。
残念ながら最近の大衆演劇では「沓掛時次郎」をあまりやらなくなってしまったようです。

さて、舞踊ショーでは座長を中心に劇団員の皆さんがいろんな衣装で登場します。
【ワンポイント:茶髪ロン毛】和装&茶髪ロン毛(長髪)、これが舞踊ショーのスタンダードなコスチューム。私は初めて大衆演劇を観たとき「なんで和服なのにこんなカツラをかぶるのか?」とたいへん違和感を感じていました。しかし慣れとは恐ろしいもので、今では舞踊ショーで普通の黒髪のカツラだと物足りなさを感じてしまう。しばらく大衆演劇場に行っていないと、あの和装&茶髪ロン毛がむしょうに見たくなってくるのです。

和装ばかりでなく、キラキラ系やシースルーもよくでてきます。賑やかで派手な衣装・シブい和服・コミカルな衣装、あの手この手でお客さんを楽しませてくれます。こっちは決して望んていないのに、小太りな座長が半裸にシースルー衣装で出てきたりします。
ところで、ここに紹介している写真は公演中に私が撮影したものです。
【ワンポイント:写真】大衆演劇のお客さんは、座員さんのファンの女性が多いです。公演中に舞台上の役者さんを撮影する方を客席のあちらこちらで見かけるでしょう。全国の大衆演劇場でたいてい共通している撮影のルールは次のとおりです。
・芝居…撮影いっさい不可
・ショー…写真のみ撮影可(フラッシュ不可、動画不可)
このブログでも公演中の写真を多く載せています。私はたいてい「フラッシュなし、シャッタースピード固定(80~160)」に設定して露出を調整しながら撮影しています。
大衆演劇観劇には是非デジカメを持っていきましょう。

近江飛龍座長の女形
【ワンポイント:女形】大衆演劇の舞踊ショーでは女形が必ず登場します。特に「座長の女形」は必ず行われます。座長本人が「俺は太っているし似合わないし女形をやりたくない」と思っていても(実際ブログで女形はキライだとつぶやく座長もちらほらいます)やらねばならないのです。座長がどこかで女形で出演する、というのはどこで定めているわけでもない決まり事となっています。
場末感の漂う客の少ない大衆演劇場で香水の匂いを漂わせながら役者が女形で踊りを舞っている様が私は好きです。その光景に日本独特の芸能である大衆演劇の「らしさ」を強く感じます。

逆に、女優さんの「立ち役(男役)」も大衆演劇の見どころのひとつ。ただしこれは必ず見られるとは限りません。
15時30分頃公演は終了。お客さんは一斉に帰ります。それに先駆けて座員さんが1階に降りてゆきます。

大衆演劇の文化のひとつに「送り出し」があります。木馬館の場合だと、座長が階段の下に立って基本的にすべてのお客さんと握手をしてお礼を述べます。座員さんも道端に出てお客さんをお見送りします。(上の写真ではその雰囲気が伝わっていませんが、このあたりに座員さんがたくさんでてきます)
最近は座長が「全員と握手」をしないこともみかけるようになりました。
以上で木馬館昼の部観劇終了です。
せっかく浅草に来たのですからこの後も楽しんで帰りましょう。
この日は火曜日。毎週火曜日の夜は浅草で浪曲を楽しむことができます。
近くにある日本浪曲協会という場所で19時から「浪曲火曜亭」という会が催されるのです。
私は大衆演劇→浪曲というハシゴをすることに決めていました。
3時間ほどの自由時間ができました。浅草界隈でのんびり時間をつぶすことにします。

浅草をぶらぶらしているとつい寄ってしまうのが、ROX(浅草六区にあるショッピングビル)の向かいにある激安スポーツウェア店「SPORTS ZYUEN」
ただでさえ安い表示価格の半額で買えたりします。舞台をやっている学生は稽古着を買うのに最適な店ではないでしょうか。
※スポーツジュエン浅草店は2017年に上野・アメ横エリアへ移転・統合しました。

合羽橋道具街に来ました。ご存じ食器具などを扱う日本一の道具街です。浅草界隈はどうしても休日に来ることが多いのですが、合羽橋では多くの店がお休みしています。この日は平日だったので合羽橋のいろんな店に立ち寄りながら散策することとしました。

合羽橋では業務用の食材を売っている店もあります。
私はスパイス大好きで、我が家ではスパイスの消費が速いので、合羽橋で大きい袋を買っています。
ここ合羽橋では普通のデパートで見かけない道具をたくさん見つけることができます。この日は、パン切り専用ナイフと、パン切り専用ボードを買いました。我が家ではホームベーカリーを購入したばかりだったので、ちょうどいいものが見つかりました。

となりの墨田区に東京スカイツリーができて、浅草を散歩しているとふと目に入ります。
左に看板が見えている「来集軒」は、小沢昭一「ぼくの浅草案内」(1978年発行)で紹介されていて知った中華料理店。「東京の味。土地の人たちでいつも満員」と書いてあります。店内は芸人さん?のサインでいっぱい。営業時間が12:00~19:00(火曜日定休日)で、大衆演劇観劇とくみあわせにくいのが残念。

浪曲は19時からですので、それまでに夕食を済ませておきます。
浅草で洋食と云えば「うますぎて申し訳ないス!」の「ヨシカミ」。
休日はお店の外に並んでいる人をよく見かけます。平日のこの時間は空いているのでしょう、ここで夕食をとることにしました。

ハヤシライスをいただきました。とても濃厚なソース。このハヤシライスはひと匙ひと匙味わいながらゆっくり食べたい。
雷門から田原町駅に向かう界隈に日本浪曲協会があります。
毎週火曜日にここの広間で行われる「浪曲火曜亭」では、浪曲師2名が出演しそれぞれ1席披露します(1席は30分弱)。木戸銭は1,500円です。

これが日本浪曲協会の建物。18時30分の開場時間に到着。

ここが入口。いわゆる寄席・演芸場でないので入りずらいかもしれません。でも大丈夫、入ってしまえばアットホームな雰囲気です。扉に入るとすぐ玄関で、右手に受付があります。木戸銭を払って、靴を脱いで、畳敷きの広間にあがります。ここが会場。座布団が並んでいるので好きなところに座って待ちましょう。
お手洗いは正面の裏の廊下にあります。
実はこの広間にスゴい額が何気なく掛かっています。「桃中軒」と大きく書かれた額の署名をみると何と「孫文」の名が。孫文は中国の辛亥革命の英雄。その書がなぜここに?
腐敗した清朝政府の打倒を志した孫文は、蜂起に失敗して清朝政府から賞金付きの指名手配となりました。それからは亡命生活を送り、多くの時期拠点を日本におきました。孫文の思想に共鳴し、革命活動を助けた日本人に宮崎滔天がいました。辛亥革命の最初の蜂起が失敗した際に、革命に協力していた日本人志士の間に不和が生じて、滔天はいっとき革命活動から距離をおき、何を思ったか浪曲師桃中軒雲右衛門の弟子となりました。この後雲右衛門は義士伝があたって大人気となり、今では浪曲中興の祖と呼ばれています。孫文から絶大な信頼を得ていた滔天はその後も孫文の活動を助けました。
あるとき孫文は芝にある桃中軒雲右衛門の家を訪ねました。雲右衛門の馬鹿話に大笑いした孫文は雲右衛門に「今日は生命の洗濯をした。君は芸人の天下を取れ、我等の革命とどちらが先に成功するか競争しよう」と言ったそうです。あの額はそのとき書かれたのかもしれません。
木馬亭での浪曲ではマイクが使われます。火曜亭は、浪曲師とお客さんとの距離が近いのでマイクはありません。
浪曲2席が終わると浪曲師とお客さんとの茶話会が始まります。座布団が脇に寄せられて、大きなテーブルが中央に置かれます。浪曲師自らがお茶やお菓子を配ったりしてセッティングしてくれます。浪曲師からよもやま話を聞くことができる楽しいひととき。
このように物理的・心理的に浪曲師とお客さんとの距離の近いところが浪曲火曜亭の魅力です。
茶話会が終わって帰路につきました。これで日記を終わります。
浅草は本当に楽しい場所です。
このブログを読んでくださった若い世代の皆さん、
たまには大衆演劇を楽しみながら、休日をゆっくり浅草で過ごしてみませんか。