WIKIレンタル 大衆演劇探訪記 知られざる大衆演劇 荒木観光ホテルで花柳願竜劇団を観る
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知られざる大衆演劇 荒木観光ホテルで花柳願竜劇団を観る

かつての日本では「旅芝居」は誰もに馴染のあるものだったようですが、現在の大衆演劇は残念ながら広い認知度を得ているとは言えません。たとえば宝塚とかミュージカルであれば行ったことはなくともある程度想像をすることはできるでしょう。しかし大衆演劇の場合は「行ったことないけど、どんなことをやっているか知っている」という人はほぼいないと思われます。多くの日本人にとって大衆演劇は「知られざる芸能」です。

その大衆演劇も全国をめぐってみてみますとさまざまな様態があることがわかります。
今回は、大衆演劇の世界の中でもさらに「知られざる」部分、一般の大衆演劇ファンには馴染の薄い一面をお伝えします。

熊本県の荒木観光ホテルで観た花柳願竜劇団の公演は、私に深い印象を刻み付けました。


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熊本駅から北に50分ほど車を走らせたところに「植木温泉」という温泉街があります。十数軒の温泉旅館が点在しています。
そのうちの一つ、大衆演劇公演が行われているという荒木観光ホテルに着きました。このとおりかなり立派な建物です。

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離れた場所から見た荒木観光ホテル。写真左手、広大なグラウンドゴルフ場、ゲートボール場を有しています。
チラシには「日本一のゲートボール競技大会」の開催案内があります。
送迎の大型バスがたくさん見えます。客室収容人数400名の大規模なホテルです。

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本館とつながっているこの建物に大衆演劇が行われる多目的ホールがあります。

ホテルのホームページでは以下のように案内されています。

大衆演劇 涙と笑いの舞台劇
公演時間 【昼】12:30~3:00 【夜】20:00~21:30
公演内容 歌、踊り、芝居の三部構成
料金 ご宿泊・ご休憩のお客様は無料でご覧いただけます。

日帰りで大衆演劇だけを観る場合の料金はいくらなのだろう。
ホテルのホームページにもチラシ・パンフレットにもどこにも記載されていません。
いちおう雑誌「演劇グラフ」には1,000円と書かれています。
基本的にそういうお客さんは想定していないのでしょうか。

大衆演劇公演を行っている宿泊施設はたくさんあります。
ホテルで大衆演劇を観るのお客さんは
・ホテルに泊まりに来て大衆演劇も観る人
・大衆演劇を主目的にきた日帰りの人
に大別されます。
全国的にみれば圧倒的に後者が多い。前者の客が多めのところでも、当然後者の客を想定してその料金を設定しています。このホテルのように前者の客が前提となっている公演地はめずらしい。

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チェックインして部屋にはいりました。
朝夕食付1泊12,000円のプランです。

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夕食

この後、大衆演劇公演夜の部が始まります。
早めに行って会場を見学しました。

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別棟にわたってすぐ「演劇場」の看板を掲げた扉があります。

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カーペット敷きの広間。あまり広くない。余計な装飾はなし。蛍光灯の無機質なあかりが寂しげである。
足を踏み入れてすぐに強烈な「場末の雰囲気」を感じ取りました。

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舞台下手

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舞台中央手前の踏み台。
緞帳には修繕の跡があります。

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広間後方に投光機がひとつ。
その後ろに積んであるのは劇団の荷物でしょう。楽屋の近くに倉庫がなくでやむを得ずここに置いているのでしょうか。こういう光景は旅役者の芝居を見に来た気分にさせられます。
ホテルに置いてあったチラシには「大衆演劇」ではなく「旅芝居」という表記で案内していました。

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20時近く。このホテルのお客さんは私以外はご老人を中心として団体さんのよう。
館内を歩いていますと、宴会&カラオケの音が聞こえてきます。
廊下ですれ違ったお客さんが「芝居あるみたいだけど行く?」「宴会はいいのか」というような会話をしていました。宴会と芝居のどちらにしようかと話していたみたいです。

何人かのお客さんが、多目的ホールのある別棟に移動します。
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めいめいが座布団を好きなところに敷いて自然とこのようなかたちになりました。
お客さんは十数人。

定刻になり、花柳願竜劇団の公演の開幕。

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オープニングはバンド演奏。
ずいぶん昔は生バンドをやる劇団はめずらしくなかったようです。しかし今では、三味線や和太鼓はありますが、こうしたバンド見かけなくなりました。私は大衆演劇公演での生バンドは初めてでした。
雰囲気は全然違いますが、靖国神社のみたままつりの見世物小屋で見た生バンドを思い出しました。

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座長のスチールギター。
私はスチールギターの音色が大好きなのですがライブで聴くことはほとんどありませんでした。こんなところで出会えて感動。

ハワイアンミュージックが不思議とこの会場の雰囲気とマッチする。
ああ、いいなあ。私は静かに興奮しておりました。

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花柳願竜座長はギター担当。

「箱根半里の半次郎」に続いて「お富さん」
座長が客席に向かって「歌いましょう」と呼びかけると、なんと私のまわりのお客さんのほとんどがお富さんを歌い出すではないか。
有名な歌だということは知っていましたが、今でも多くのご老人が暗唱できるほど流行っていたのですね。
そしてそれをなんのためらいもなく楽しそうに歌いだすお客さんの中にいて、現代の大衆演劇において何かが失われつつあるのではないかという気がしたのでした。

座長が手にしているのはエレキギター。
となれば出ましたベンチャーズ。
お客さんがよろこぶツボはとことんおさえているのでしょうね。

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生バンドによる歌謡ショーもあります。

第一部の途中で座長口上挨拶がありました。
冗談めかして次のような話をしました。
このホテルのお客さんはゲートボールかグラウンドゴルフを目的にきているけれども、私にとってゲートボールはカタキなのです。お昼の部の公演があるのに、お客さんはみな外に出ていってしまう。私たちはその間ここでお客さんが来るのを待っている。公演開始時間から40~50分すぎてお客さんが1人2人やってきたら公演を始めるのです。

普通の大衆演劇公演ではお客さんの数が極端に少ない場合は公演中止になります。ここではどんなにお客さんが少なかろうが途中から入場してこようが、公演は行われるのですね。
演奏の次は舞踊ショー。

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花柳願竜座長。
舞踊の途中で客席に降りてお客さん全員と握手しました。これはお客さんが少ない公演でよくみられる光景です。

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秋山拓磨

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花柳隆
今や大衆演劇の舞踊ショーで当たり前になった「茶髪・長髪」じゃないのがいい。

舞踊ショーが終わって「休憩を入れずに」お芝居へ。
「遠山桜」という外題。座長が遠山の金さんの役。
与吉は母の病気の治療のため悪徳高利貸の閻魔の九兵衛から5両を借りた。利子がついてそれが半年で20両になった。与吉は閻魔の九兵衛の家に火を放つ。(中略)最後、遠山の金さんが与吉に裁きを言い渡す。
というような話で、途中で浪曲(京山幸枝若の「遠山桜」だろう)が流れて節劇みたいになる場面があります。

芝居の途中で、その芝居に関連する演歌を流すのは大衆演劇の常套手段ですが、浪曲はほとんど使われませんね(舞踊ショーでは歌謡浪曲がよく使われますが)。旅芸人による節劇は絶滅してしまいましたが、その名残に触れたような気がして感慨深いものがありました。
先日、長谷川伸没後50年の記念イベントで「瞼の母」の節劇を観ました。生の浪曲が大衆演劇の芝居にマッチすることを実感しました。今の大衆演劇劇団も是非節劇を取り入れてほしいと思います。

芝居が終わって夜の部終了。
とても余韻が深い公演でした。昔ながらの味わいを持つ花柳願竜劇団。もう一度観たいと望んでいるのですが、東京から行きやすいところに来てくれない。あれからずっとチャンスをうかがっています。

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さみしさとうれしさが混じったようなそこはかとない旅情を抱きながら植木温泉街を後にしました。
これから、すぐ北の山鹿市にある芝居小屋八千代座へ向かいます。

(2012年6月探訪)

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Author:notarico
東京在住。大衆芸能(大衆演劇、落語、浪曲、講談等)が好きです。特に大衆演劇の世界に興味をもっています。
twitterアカウント:notarico

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