行友李風 「極付 国定忠治」 あらすじ
行友李風 「極付 国定忠治」 あらすじ
大正6年沢田正二郎は新国劇を立ち上げました。同年大阪松竹と提携。大阪松竹の白井社長は座付き作家として行友李風を送りこみました。大正8年に「国定忠治」発表。殺陣師段平と立案した立ち回りで観客を虜にしました。
その行友李風の戯曲のあらすじを以下まとめてみました。
「赤城の山も今夜を限り…」の有名な場面はそのまま抜粋いたします。
* * *
行友李風 「極付 国定忠治」
序幕 赤城山麓室沢村才兵衛茶屋
(代官斬りの重罪を負った忠治一家は赤城の天神山、滝沢不動の万年溜に潜んでいる)
中山清一郎が御用聞きの三羽烏といわれた御室勘助と川田屋惣次を才兵衛の茶屋に呼ぶ。中山はふたりに今夜のうちに忠治召し捕りの手筈を整えるよう命じる。
皮肉にもふたりとも忠治一家の縁者(勘助の娘婿は忠治の片腕の板割浅太郎、惣次の娘のお万の亭主は忠治)である。勘助と惣次はライバル同士で表面上は仲が悪い。
惣次が帰った後、板割の浅太郎が飛び込んでくる。先日勘助が忠治親分に御用の声をかけたこと、今回の捕親の御用を受けたことに対し、日頃の義理を考えたらそんなことはできないはずだ、親分の無念晴らしと勘助に斬りかかる。勘助は「俺の男は俺が立てる」と腹を切る決心で奥へ行く。
二幕目 赤城天神山不動の森
川田屋惣次が忠治の潜伏地へやってくる。惣次は忠治に向かって「この捕親の顔を立て、お縄を受けてもらいたい」と告げる(が、本心では忠治一家に斬られる覚悟である)。子分らは色めき立つが忠治が制する。忠治は、自分の身柄と引き換えに子分一同の罪を許してほしいと告げる。
そこに浅太郎が現れる。勘助の首を持っている。役目と義理の板挟みに逢い、浅太郎に悪名を着せまいと勘助は自分で腹を切ったとのこと。それを見た惣次は、自分も斬られる覚悟でここに来た、勘助の後を追いたいと告げる。惣次が自害しようとするのを忠治が止める。
そこで日光の円蔵が、忠治一家の三百人が今宵のうちに残らず山を下りて散り散りになってしまえばよいと提案する。話は決まり子分と惣次はその場を離れる。残ったのは忠治と子分の巌鉄、定八である。
忠治 鉄。
巌鉄 へい。
忠治 定八。
定八 なんです、親分。
忠治 赤城の山も今夜を限り、生れ故郷の国定の村や、縄張りを捨て国を捨て、可愛い子分の手めえ達とも、別れ別れになる首途(かどで)だ。
定八 そう云ゃなんだか嫌に寂しい気がしやすぜ。
雁の声
巌鉄 あゝ、雁が鳴いて南の空へ飛んで往かあ。
忠治 月も西山に傾くようだ。
定八 俺ぁ明日ぁどっちに行こう?
忠治 心の向くまま足の向くまま、当ても果てしもねえ旅へ立つのだ。
巌鉄 親分!
笛の音、聞ゆ。
定八 あゝ円蔵兄哥が……。
忠治 あいつも矢っ張り、故郷の空が恋しいんだろう。
忠治、一刀を抜いて溜池の水に洗い、刀を月光にかざし-
忠治 加賀の国の住人小松五郎義兼が鍛えた業物、万年溜の雪水に清めて、俺にゃあ、生涯手めえという強い味方があったのだ。
定八、刀を拭う。
三幕目 第一場 信州権堂町外れ庚申塚
吉右衛門は山形屋に娘を売って百両の金を持って故郷の越後へ帰る途中である。山形屋の子分三太と馬吉が吉右衛門から百両を強奪する。庚申塚にやってきた忠治、金を奪い終わった三太と馬吉の会話を聞いている。三太と馬吉が去ると吉右衛門が追いかけてくる。忠治は吉右衛門から訳を聞く。
三幕目 第二場 信州権堂山形屋店先
忠治は自分を吉右衛門の甥の彦六と名乗って、吉右衛門とともに山形屋を訪ねる(彦六はひどい越後なまりである)。彦六は山形屋藤蔵に、喜右衛門がおいはぎに逢って財布をとられたからもう百両貸してほしいと頼む。藤蔵は断るが、彦六はおいはぎが藤蔵の子分だったことを指摘する。権蔵は目明しであることを笠に着て彦六を威圧する。忠治は彦六の演技をやめ正体を明かす。相手が忠治とわかって権蔵は下手に出る。忠治は藤蔵から百両ださせ吉右衛門に渡す。さらに身請け金として後で百五十両届けるからと言って吉右衛門の娘お芳を解放させ、吉右衛門とお芳を駕篭で越後に送り届ける。山形屋を去ってゆく忠治を見送って、藤蔵の女房のおれんが口惜しがる。おれんにたきつけられた藤蔵は忠治を待ち伏せして斬ることを決める。
三幕目 第三場 半郷の松並木
山形屋藤蔵と子分が木のかげに隠れている。提灯を手に忠治が通り過ぎる。藤蔵が背後から槍を突き出す。忠治は藤蔵と子分を斬り倒して去る。
四幕目 上州木村の庵室
(忠治は三年の旅の後故郷に戻る途中で子分の頑鉄と定八に逢う。頑鉄と定八は忠治を分家の伯父の家へ届けようとしている。国定村へは後三里)
妙真という尼が住む尼寺。寺では妙真の息子長五郎が拐かしてきて無理やり女房にしたお縫が妙真から折檻を受けている。
忠治と定八、頑鉄は尼寺を訪ね、一晩泊めてもらいたいと頼む。忠治と顔見知りの妙真は表面上は喜んで迎え入れるが、内心金儲けをたくらむ。妙真は忠治が戻ってきているという情報を売ろうと息子の伊三と共謀する。忠治はそのことに感づいた。忠治は尼寺の奥から、縛られているお縫とその赤ん坊を救い出す。寺に戻ってきた妙真を忠治が殺し、三人は寺を出る。
大詰 国定村分家の土蔵の内
(忠治が国定村に帰って二十日が経った。忠治は尼寺での傷がもとで中風に罹り、今では口もきけない)
忠治は全身不随で寝ている。頑鉄と定八が看病していると、御用だ、という声。
分家の多左衛門は役人につかまり、忠治を引き渡そうと役人を案内して土蔵にやってきた。
男らしく死んでゆこうと頑鉄と定八は最後の抵抗をし、斬られて死ぬ。中山清一郎は多左衛門の縄を解き、伯父・甥の最期の別れをさせる。多左衛門は安らかに成仏してくれと、数珠を取り出し忠治の首に懸ける。いたましい忠治の姿。忠治は涙を流す。
大正6年沢田正二郎は新国劇を立ち上げました。同年大阪松竹と提携。大阪松竹の白井社長は座付き作家として行友李風を送りこみました。大正8年に「国定忠治」発表。殺陣師段平と立案した立ち回りで観客を虜にしました。
その行友李風の戯曲のあらすじを以下まとめてみました。
「赤城の山も今夜を限り…」の有名な場面はそのまま抜粋いたします。
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行友李風 「極付 国定忠治」
序幕 赤城山麓室沢村才兵衛茶屋
(代官斬りの重罪を負った忠治一家は赤城の天神山、滝沢不動の万年溜に潜んでいる)
中山清一郎が御用聞きの三羽烏といわれた御室勘助と川田屋惣次を才兵衛の茶屋に呼ぶ。中山はふたりに今夜のうちに忠治召し捕りの手筈を整えるよう命じる。
皮肉にもふたりとも忠治一家の縁者(勘助の娘婿は忠治の片腕の板割浅太郎、惣次の娘のお万の亭主は忠治)である。勘助と惣次はライバル同士で表面上は仲が悪い。
惣次が帰った後、板割の浅太郎が飛び込んでくる。先日勘助が忠治親分に御用の声をかけたこと、今回の捕親の御用を受けたことに対し、日頃の義理を考えたらそんなことはできないはずだ、親分の無念晴らしと勘助に斬りかかる。勘助は「俺の男は俺が立てる」と腹を切る決心で奥へ行く。
二幕目 赤城天神山不動の森
川田屋惣次が忠治の潜伏地へやってくる。惣次は忠治に向かって「この捕親の顔を立て、お縄を受けてもらいたい」と告げる(が、本心では忠治一家に斬られる覚悟である)。子分らは色めき立つが忠治が制する。忠治は、自分の身柄と引き換えに子分一同の罪を許してほしいと告げる。
そこに浅太郎が現れる。勘助の首を持っている。役目と義理の板挟みに逢い、浅太郎に悪名を着せまいと勘助は自分で腹を切ったとのこと。それを見た惣次は、自分も斬られる覚悟でここに来た、勘助の後を追いたいと告げる。惣次が自害しようとするのを忠治が止める。
そこで日光の円蔵が、忠治一家の三百人が今宵のうちに残らず山を下りて散り散りになってしまえばよいと提案する。話は決まり子分と惣次はその場を離れる。残ったのは忠治と子分の巌鉄、定八である。
忠治 鉄。
巌鉄 へい。
忠治 定八。
定八 なんです、親分。
忠治 赤城の山も今夜を限り、生れ故郷の国定の村や、縄張りを捨て国を捨て、可愛い子分の手めえ達とも、別れ別れになる首途(かどで)だ。
定八 そう云ゃなんだか嫌に寂しい気がしやすぜ。
雁の声
巌鉄 あゝ、雁が鳴いて南の空へ飛んで往かあ。
忠治 月も西山に傾くようだ。
定八 俺ぁ明日ぁどっちに行こう?
忠治 心の向くまま足の向くまま、当ても果てしもねえ旅へ立つのだ。
巌鉄 親分!
笛の音、聞ゆ。
定八 あゝ円蔵兄哥が……。
忠治 あいつも矢っ張り、故郷の空が恋しいんだろう。
忠治、一刀を抜いて溜池の水に洗い、刀を月光にかざし-
忠治 加賀の国の住人小松五郎義兼が鍛えた業物、万年溜の雪水に清めて、俺にゃあ、生涯手めえという強い味方があったのだ。
定八、刀を拭う。
三幕目 第一場 信州権堂町外れ庚申塚
吉右衛門は山形屋に娘を売って百両の金を持って故郷の越後へ帰る途中である。山形屋の子分三太と馬吉が吉右衛門から百両を強奪する。庚申塚にやってきた忠治、金を奪い終わった三太と馬吉の会話を聞いている。三太と馬吉が去ると吉右衛門が追いかけてくる。忠治は吉右衛門から訳を聞く。
三幕目 第二場 信州権堂山形屋店先
忠治は自分を吉右衛門の甥の彦六と名乗って、吉右衛門とともに山形屋を訪ねる(彦六はひどい越後なまりである)。彦六は山形屋藤蔵に、喜右衛門がおいはぎに逢って財布をとられたからもう百両貸してほしいと頼む。藤蔵は断るが、彦六はおいはぎが藤蔵の子分だったことを指摘する。権蔵は目明しであることを笠に着て彦六を威圧する。忠治は彦六の演技をやめ正体を明かす。相手が忠治とわかって権蔵は下手に出る。忠治は藤蔵から百両ださせ吉右衛門に渡す。さらに身請け金として後で百五十両届けるからと言って吉右衛門の娘お芳を解放させ、吉右衛門とお芳を駕篭で越後に送り届ける。山形屋を去ってゆく忠治を見送って、藤蔵の女房のおれんが口惜しがる。おれんにたきつけられた藤蔵は忠治を待ち伏せして斬ることを決める。
三幕目 第三場 半郷の松並木
山形屋藤蔵と子分が木のかげに隠れている。提灯を手に忠治が通り過ぎる。藤蔵が背後から槍を突き出す。忠治は藤蔵と子分を斬り倒して去る。
四幕目 上州木村の庵室
(忠治は三年の旅の後故郷に戻る途中で子分の頑鉄と定八に逢う。頑鉄と定八は忠治を分家の伯父の家へ届けようとしている。国定村へは後三里)
妙真という尼が住む尼寺。寺では妙真の息子長五郎が拐かしてきて無理やり女房にしたお縫が妙真から折檻を受けている。
忠治と定八、頑鉄は尼寺を訪ね、一晩泊めてもらいたいと頼む。忠治と顔見知りの妙真は表面上は喜んで迎え入れるが、内心金儲けをたくらむ。妙真は忠治が戻ってきているという情報を売ろうと息子の伊三と共謀する。忠治はそのことに感づいた。忠治は尼寺の奥から、縛られているお縫とその赤ん坊を救い出す。寺に戻ってきた妙真を忠治が殺し、三人は寺を出る。
大詰 国定村分家の土蔵の内
(忠治が国定村に帰って二十日が経った。忠治は尼寺での傷がもとで中風に罹り、今では口もきけない)
忠治は全身不随で寝ている。頑鉄と定八が看病していると、御用だ、という声。
分家の多左衛門は役人につかまり、忠治を引き渡そうと役人を案内して土蔵にやってきた。
男らしく死んでゆこうと頑鉄と定八は最後の抵抗をし、斬られて死ぬ。中山清一郎は多左衛門の縄を解き、伯父・甥の最期の別れをさせる。多左衛門は安らかに成仏してくれと、数珠を取り出し忠治の首に懸ける。いたましい忠治の姿。忠治は涙を流す。