大衆演劇劇団は旅役者一座ばかりではありません。
その土地に根ざし地元の方々に愛されている劇団もあります。
香川県琴平町のお隣りまんのう町で活動している南ファミリー劇団は自前の劇場を持ち、週に1回毎週日曜日に公演を行っている劇団です。
四国の旅の途中で南ファミリー劇団の公演を訪ねました。
土曜日に琴平町に到着。
宿泊先に荷物を預けて、まずこの日はこんぴらさんのお参りへ。

土産物屋が並ぶ参道を進みます。

ちょっと寄り道をして旧金毘羅大芝居「金丸座」へ。

館内ではボランティアの方が解説してくれます。
この日はお客さんが少なくつきっきりで説明していただきました。
パンフによると、天保6年に建てられた現存する日本最古の芝居小屋で昭和45年に「旧金毘羅大芝居」として国の重要文化財に指定される。もとは繁華街にあったが、昭和47年から4年かけて現在の場所に移築されたとのこと。
金丸座を見学後、こんぴらさん参拝再開。
参道から本宮まで785段の石段があります。

本宮を参拝して、さらに583段の石段を登って奥社へ着きました。
十数年ぶり。前回そんなに疲れた記憶はなかったのですが、今回は体力の衰えを感じました。

金毘羅様ときいて思い浮かぶのが森の石松。次郎長伝でいうところの「石松代参」。
裏切り者の保下田九六を斬り殺した翌年、次郎長はその太刀を金毘羅様に奉納すべく石松に代参を任じました。
「石松三十石船」(「江戸っ子だってねえ」「神田の生まれよ」「スシくいねえ」)はこの代参の帰りの出来事です。その後の道中、石松は持っていた大金を狙われ土地の博徒の騙し討ちに合い、一旦は小松村の七五郎の家に逃れましたが、最期は大勢相手に単身真っ向勝負をして斬殺されてしまいます。
大衆演劇では「森の石松の最期」という演目でおなじみですね。私が忘れることのできないのが、玄海竜二先生が演じた森の石松。最後の決闘の場面はものすごい迫力でした。
虎造の浪曲が流行っていたかつての日本には石松代参を知らない者はいなかったでしょう。
参道の途中では石松関連と思われるものを見かけます。
今の若者はこの人形を見て森の石松だろうと認識するのでしょうか。

「石松まんじゅう」を買いました。

「かた目の親分」
これも石松をモチーフとしたお菓子なのでしょうが、石松は親分じゃないから誤解を与えそうですね。
こんぴらさん参拝を終え、宿で疲れをとって、翌日の日曜日。
南ファミリー劇団を観に出かけました。

地図をたよりに琴平駅付近から二十数分歩いて「買田東」という大きな交差点に出ました。

この交差点のすぐ近くに「カフェレストニュー道しるべ」という看板をだした喫茶店があります。
おなじみの大衆演劇幟も立っています。
ここが南ファミリー劇団のホームグラウンドです。

ここが入口です。
入口入ってすぐ左に受付があります。

入口入って右に廊下がのびていてその突き当りに広間があります。
廊下に今年載ったばかりの雑誌の取材記事が貼ってありました。
その記事にはこんなことが書いてありました。
現座長の父親(初代英二朗)は大阪で60人以上の座員を抱える劇団の座長だった。その後劇団を解散し、転職して香川県で三軒の喫茶店を経営するに至った。初代の父親が「もう一度芝居が観たい」と望んで亡くなり、その供養と他のおじいちゃんおばあちゃんをかわりに喜ばせようという思いから、身内と喫茶店の従業員で劇団を結成する。今から33年ほど前、現座長が18才の頃だった。4か月の猛稽古を経て老人ホームへの慰問公演をしたのが南ファミリー劇団の旗揚げ(「南」は本名の名字)。初代には3人の息子がいた。その後、長男は喫茶店の経営者として腕をふるい、二男の現座長が山口英二朗を襲名して新座長を務め、三男が副座長になった。
その他パリ公演を行ったという記事も紹介されていました。
二代目座長になってから今年で30年。今では座長の子供7人(5男2女)が舞台で活躍しています。
まさにファミリー劇団なのです。
下駄箱に靴をしまって(下駄箱がいっぱいになったら靴をビニール袋に入れて持っていく)広間にあがります。

広間を後ろから。
よくありそうな大衆演劇場の眺めです。

後方にはイス席があります。イス席があるかどうかで、ご老人にやさしい劇場かそうでないかがわかります。

ここは完全予約制で指定席が準備されています。
机にはチラシやスタンプカードが置かれていました。
机の上に置いてあるお茶はセルフサービス。相席のおばちゃんが私のためにお茶をいれてくれました。

花道

<本日の公演内容>の案内板
南ファミリー劇団の公演の基本情報は以下のとおり
第1部 お芝居
お食事休憩
第2部 お芝居
第3部 舞踊ショー
開演11時 終演15時30分頃
観劇料金3,500円(食事代込み)※要予約
この日の第一部は若座長山口桃太郎が主演の「眠狂四郎」
シリアスな芝居でした。
第一部が終わると、劇団員の皆さんがお弁当のお重を運んできてお客さんに配ります。

観劇弁当
別料金でお味噌汁と茶碗蒸しを追加することができます(これは第1部の前にオーダーを受け付けます)。
もちろんビールやお酒も注文できます。
食事休憩が終わって第二部は座長主演の喜劇「英ちゃん旅日記」
江戸の大店の放蕩息子が浜松の親戚の店にお金を届けに行く途中、箱根で山賊に会い身ぐるみはがされてしまう。
護身用の汚い刀をもらって江戸に引き返す・・・という話。
おそらく講談の「名刀捨丸の由来」を下敷きとしてアレンジした芝居だと思いますが、私は梅沢武生劇団と劇団千章でも観たことがあります。この芝居は他の演目にはない大胆な演出があるのですが(ネタばれになるので書きませんが)南ファミリーバージョンではそれはありませんでした。他はだいたい同じ。
客席のおばあちゃん大ウケの楽しい芝居でした。

第二部のお芝居が終わって座長口上挨拶。
お芝居ではアホで元気な若旦那の役だったのでそのままのいでたちでご挨拶。
続いて第三部「紫陽花模様」と題した舞踊ショー。
南ファミリーそろい踏み。以下1曲ずつ写真で紹介します。

オープンニングは若座長山口桃太郎を中心とした「那須与一」
三波春夫の長編歌謡浪曲に合わせてたくさんの役者が登場します。
ずいぶん凝ったオープニングショーです。公演は週に1回しかありませんが、そのぶん中身は充実しています。

雪太郎(20歳)の女形

座長の女形

「チビマツケン」こと花太郎、中学1年生。7人兄弟の末っ子。
この日の私の一番の注目役者はこの花太郎でした。きびきびとした立ち居振る舞い、元気があって気持ちのよい表情・声。他の大衆演劇劇団でもここまでセンスを感じる少年はあまりいないですね。将来がとても楽しみです。
長渕の「俺らの家まで」を溌剌と踊りました。中1にしてこの選曲センスもいい。

座長の二人の娘
左:さくら、高校1年生
右:すみれ、中学3年生

桃太郎の女形
大衆演劇定番ソング「酒供養」

月太郎、18才
劇団では3枚目担当なのでしょうか。舞台上でふんどし姿になるのが好きでお尻のケアを欠かさずしているみたいです。月太郎のお尻は南ファミリー劇団のみどころのひとつと覚えておこう。

金太郎

副座長山口京之助の子供
たんぽぽ、小学5年生
鯉太郎、4才
この日副座長は怪我のためお休みしていました

特別出演、山口大助

美智子
座長の母

桃太郎

ラストショーも凝っています。

カーテンコール

送り出し
アットホームな雰囲気でとても楽しいひとときを過ごしました。
お客さん大切にしていることがひしひしと伝わる公演。また家族の結束を感じる公演。
とても素敵な劇団だなと思いました。
大衆演劇ファンの方、こんぴらさんを訪ねる折には是非「南ファミリー劇団」も観に行きましょう。
(2013年6月探訪)