WIKIレンタル 大衆演劇探訪記 2013年08月
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浅草木馬館昼の部観劇マニュアル (浪曲火曜亭付き)

(おことわり)
浅草木馬館は2014年3月にリニューアルオープンしました。
本ブログは改修前の木馬館を取材した内容となっております。

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浅草は楽しい。

その楽しさを大衆演劇の魅力とともにお伝えするレポートの続編です。

「浅草木馬館昼の部観劇マニュアル」と題しているとおり、木馬館で昼の部公演を観た日の日記です。夜は浅草にある日本浪曲協会で浪曲を楽しみましたのでそれも合わせてお伝えします。

木馬館夜の部観劇については、姉妹編レポート「大衆演劇・浪曲・講談を1日で楽しむ方法」をご覧ください。
今回のレポートも、「大衆演劇って何?」という初心者の方へのガイドとなるよう、特に舞台に興味がある若い方に読んでいただくことを想定して、「大衆演劇ワンポイント情報」を交えながらお伝えしていきたいと思います。

木馬館の昼の部を観ようと決めましたら、当日は10時前に木馬館に着くことを目指して家を出ましょう。

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浅草気分を味わうのならやはり雷門から仲見世を通って浅草寺前へ抜けるルート。
仲見世は混んでいるので私はたいてい空いている裏道を通っています。
木馬館へのルート詳細については姉妹編レポートをご覧ください。

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木馬館に着きました。2階が大衆演劇木馬館、1階が木馬亭。

私は銀座線田原町駅から歩いて行くこともあります。
私の歩くスピードだと、銀座線田原町駅から木馬館まで9分、銀座線浅草駅から木馬館まで7分です。

ちなみにこの写真には間違い探しがあります。
右に見える看板の羽子板の文字が「駐輸禁止」になっています。正しくは「駐輪」でしょう。

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建物入口付近にチラシが置いてあります。

【ワンポイント:チラシ】大衆演劇では、一般的な演劇で配られるような「当日パンフレット」というものはありません。劇団員の顔と名前は何度も通いながら見て覚えるものなのです。木馬館の場合は、受付近くに役者の名前が貼り出されています。この写真をとるなりして、なるべく役者の名前を覚えるようにしましょう。役者を覚えるとより楽しく観劇することができます。

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木馬館脇の小路にベンチがあり、すでにそこに人が並んで座っています。
木馬館では朝の10時に昼の部公演の整理券を配付します。その整理券を入手するために並ぶのです。

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早く来たかいがあって6番の整理券を入手できました。手作りの整理券。
古くなった木馬亭の浪曲番組表の再利用でした。

昼の部の入場は11時。10時50分に集合して整理券順に並びます。それまで自由です。

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朝の珈琲を飲みたくなりました。浅草にはたくさんの喫茶店があります。
この日は「ローヤル珈琲店」に入りました。

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(写真左)コーヒーと鎌倉山チーズケーキをいただきました。
隣のテーブルではご婦人連が大衆演劇トークをしていました。ここは木馬館から遠くないので大衆演劇ファンもよく使うのでしょう。美濃瓢吾「浅草木馬館日記」に、着流しに下駄ばきの青年浪曲師が木馬亭にいたところファンの女の子2人に誘い出されてローヤルに入ったというくだりがあります。その印象が強く、どうも私は木馬館とローヤルはセットのような気がしてしまうのです。

ローヤルの名物をご紹介しておきしょう。(写真右)のホットサンド。テレビ「どっちの料理ショー」で紹介され勝利したとか。これを初めて食べたときの感動といったら。美味しいパン、絶妙の焼き加減。休日の朝、家を出かける前に「今日はローヤルでアイスコーヒーとホットサンドを頼もう」と思うだけで私の心は浮かれてくるのです。

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10時50分を過ぎると、木馬館の従業員がお客さんを整理番号順に整列させます。
これは別の日の写真ですが、お客さんが多いとこのように木馬館の裏までずーっと列がのびます。

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11:00に入場開始。ここで木戸銭1600円を払ってチケットを受け取ります。そのまま階段を上って2階へ。
階段を上りきったところにいる従業員のおばちゃんにチケットを渡して劇場に入ります。
受付すぐ横に今日の芝居の外題(演目)と舞踊ラストショーのタイトルが掲示されます。
2019年に木戸銭は1700円に改定されました

【ワンポイント:外題】常連さんが多い大衆演劇ではお芝居の演目は毎日変わります。劇団はたくさんのレパートリー(どの劇団でもやる定番ものからオリジナルまで)を持っていて、その日にどの芝居をやるかはたいてい直近に決めています。行ってみないと外題がわからないところにちょっとしたワクワクドキドキ感があります。

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木馬館の様子。左奥に見えるのが出入口。
見やすいイイ席はすでに予約席として確保されています。それ以外は自由席。
木馬館では、どのあたりの席をとろうかと迷うことが多いです。
客席を上から見たとします。タテで見ると前から3列目から数列、ヨコで見ると中央よりの数列が予約で埋まっている可能性が高いです。つまり客席の真ん中のゾーンが予約指定席が多くその外周が自由席といったイメージ。
早い整理券を持っているお客さんは、真ん中ゾーンの予約が入っていない席をみつけて座ります。それ以外のお客さんは外周のどのあたりに座するかをその場の判断で決めなくてはなりません。

通常の劇場ですと、予約席は舞台に近い一番前の席から埋まることが多いです。しかし木馬館は3列目以降が予約席となっています。それはなぜか。

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木馬館は舞台が高く、最前列はこのようにかなり上を見上げるかたちになります。また近すぎて舞台全体を見渡せない。木馬館の最前列は不人気席なのです。やっぱり役者のいい表情とポーズを見たかったら、フラットなアングルがいいでしょう。
私は役者の表情よりも大衆演劇ならではの臨場感を楽しむタチなので、舞台に近い2列目をまず狙います。

木馬館では常に場内誘導の従業員が劇場内にいます。初心者の方は従業員さんのおすすめに従って座ればよいでしょう。

開演は12時です。
多くの大衆演劇場では、お客さんは入場してから一時退出をしないのが普通です。
しかしここは浅草。時間つぶしするトコロはいくらでもあります。木馬館では入場して席を確保した後、座席に荷物やらハンケチやらを置いて一時退出するお客さんが多いです。

昼の部は12:00~15:30です。
席をとったら開演時間までに昼食をとるというのが私のパターン。
入るときにチケットを渡したおばちゃんから「外出券」をもらって外に出ます。

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お昼は和食と決めました。「浅草木馬館日記」には「春」という有名な釜飯屋さんがよく出てきます。春は11時から営業していますが、お客さんが来てから炊き始めるのでゆっくりと食事できない。電話で予約しておくとあらかじめ炊いておいてくれるので待たずに食べることができますが、それもしていなかったので別の店にします。
この日は木馬館の近くにある大衆食堂の「水口」に行きました。

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ここの「炒り豚定食」がとても美味しいのです。たくさん入っている玉ねぎの歯ごたえ、ほんのりとまろやかな甘みが広がるソース。郷愁を誘う昭和な味です。お新香、お椀も美味しい。外食といえばこってりラーメンばかり食べている若者に是非味わってほしい定食です。

食事を終え、ROXの地下で缶チューハイを買って木馬館に戻りました。

このように木馬館昼の部観劇に際しては、
・10時整理券配付~11時入場
・11時入場~12時開演
の2回、小一時間の自由時間が発生します。この時間を浅草でどう過ごすかを考えるのがまた楽しい。
独りで自由であれば、そして暑い日でなければ、浅草界隈をぶらぶら散歩するだけで楽しく時間をつぶせます。

ですから木馬館に行く際は「大衆演劇を楽しみに行く」というより「浅草を楽しみに行く」というつもりで、ひいては「人生をのんびり楽しむ」くらいの心持ちでお出かけするのがよろしいのではないでしょうか。

昼の部は12時ジャストに開演します。余裕をもって木馬館に戻りましょう。
公演の構成は、
 第一部 ミニショー 20~30分
 第二部 お芝居 60分くらい
 第三部 グランドショー 70分~
が定番です。同じ劇団でも日によってプログラムがかわる場合があります。

休憩時間には女性トイレには長蛇の列ができます。開演前にトイレを済ませておきましょう。

【ワンポイント:ショー】第一部と第三部でやることは同じです。歌(演歌・歌謡曲・J-POPなど)に合わせて役者さんが踊ります。私が思うに「大衆演劇ファン度」と「ショーを楽しめる度」とは比例関係にあります。依存症のごとく、大衆演劇に通ってショーに親んでいくうちに、自らの心身がショーの織り成す世界に馴染んでくるのです。
初めて大衆演劇を観る若い方はショーを見てこれをどう楽しめばよいのだろうと思うかもしれません。
最近は小劇場系の演劇では芝居中にダンスを取り入れることが多くなりました。私は小劇場演劇のダンスを見ては「これ大衆演劇で使えるな」とか、舞踊ショーを見ては「小演劇でもこういう踊りをとりいれればいいのに」などと勝手な感想をいだいています。大衆演劇を初めて見る若い演劇人はそのような目線でショーを見てみてはいかがでしょうか。特に、「掌・指先の使い方」「重心の低さ」は参考になるのではないでしょうか。大衆演劇には独特の「和洋折衷のナルシスティックな仕草」もあります。これが得意な役者は見ていてハマるかもしれません。


以下、近江飛龍劇団の舞踊ショーの様子をご紹介します。
全国に100以上の大衆演劇劇団があります。その世界の中で一番笑いのセンスがあると私が思っているのが近江飛龍座長です。

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舞踊ショー開幕。「三度笠に縞のマント」の股旅姿。これを観ないと大衆演劇場に来た気がしません。
【ワンポイント:博徒】大衆演劇は時代劇。特に江戸時代~明治初期の博徒が登場します。博徒は芝居の中では「やくざ」と呼ばれ、まっとうな仕事をしている「かたぎ」とは相反する存在として扱われます。やくざは「〇〇一家」という徒党を組んで賭場(博打はもちろん公にはご法度)を管理しており、たいてい縄張り争いのため近隣の一家とは敵対関係にあります。縄張りの賭場を管理するトップつまり親分は「貸元」とも云いその下に「代貸」「三下」がいます。
一方、一家に属さない一匹狼の博徒もいます。「旅鴉(たびがらす)」などと自称して諸国を股にかけて旅をします。こういうやくざを主人公にした「股旅もの」の芝居がかつてたいへん人気をよんで、今でも「旅するやくざ」を扱った芝居は大衆演劇で定番となっています。大衆演劇を観るにあたって予備知識として知っておきたい概念に「一宿一飯の恩」というものがあります。やくざの旅人がその土地の親分を訪ねてきた場合、親分はこれを快く受け入れ宿泊や食事の世話をします。旅人は一度その親分に恩を受けたら、命の危険を伴うことがあっても親分をたすけなければなりません。この「一宿一飯の恩」から生じる葛藤がよく大衆演劇の題材となります。ついでに「股旅もの」の生みの親長谷川伸の名作戯曲「沓掛時次郎」から名せりふを抜粋しておきましょう。
時次郎はとある一家の世話になり、その一家と敵対する中ノ川一家の三蔵を斬りに行くことになった。三蔵の家の戸口でのやり取り-
時次郎「あっしは旅にんでござんす。一宿一飯の恩があるので、怨みつらみもねえお前さんに敵対する、信州沓掛の時次郎という下らねえ者でござんす」
三蔵「左様でござんすか。手前もしがない者でござんす。ご叮嚀なお言葉で、お心のうちは大抵みとりまするでござんす」
時次郎「お見あげ申しますでござんす。勝負は一騎討ち。他人まぜなしで、潔くいたしとうござんす」
三蔵「お言葉、有難う存じます」

長谷川伸の美しくかっこいい科白(せりふ)にしびれます。こんな科白を舞台で云ってみたい。
残念ながら最近の大衆演劇では「沓掛時次郎」をあまりやらなくなってしまったようです。

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さて、舞踊ショーでは座長を中心に劇団員の皆さんがいろんな衣装で登場します。
【ワンポイント:茶髪ロン毛】和装&茶髪ロン毛(長髪)、これが舞踊ショーのスタンダードなコスチューム。私は初めて大衆演劇を観たとき「なんで和服なのにこんなカツラをかぶるのか?」とたいへん違和感を感じていました。しかし慣れとは恐ろしいもので、今では舞踊ショーで普通の黒髪のカツラだと物足りなさを感じてしまう。しばらく大衆演劇場に行っていないと、あの和装&茶髪ロン毛がむしょうに見たくなってくるのです。

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和装ばかりでなく、キラキラ系やシースルーもよくでてきます。賑やかで派手な衣装・シブい和服・コミカルな衣装、あの手この手でお客さんを楽しませてくれます。こっちは決して望んていないのに、小太りな座長が半裸にシースルー衣装で出てきたりします。
ところで、ここに紹介している写真は公演中に私が撮影したものです。
【ワンポイント:写真】大衆演劇のお客さんは、座員さんのファンの女性が多いです。公演中に舞台上の役者さんを撮影する方を客席のあちらこちらで見かけるでしょう。全国の大衆演劇場でたいてい共通している撮影のルールは次のとおりです。
・芝居…撮影いっさい不可
・ショー…写真のみ撮影可(フラッシュ不可、動画不可)
このブログでも公演中の写真を多く載せています。私はたいてい「フラッシュなし、シャッタースピード固定(80~160)」に設定して露出を調整しながら撮影しています。

大衆演劇観劇には是非デジカメを持っていきましょう。

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近江飛龍座長の女形
【ワンポイント:女形】大衆演劇の舞踊ショーでは女形が必ず登場します。特に「座長の女形」は必ず行われます。座長本人が「俺は太っているし似合わないし女形をやりたくない」と思っていても(実際ブログで女形はキライだとつぶやく座長もちらほらいます)やらねばならないのです。座長がどこかで女形で出演する、というのはどこで定めているわけでもない決まり事となっています。
場末感の漂う客の少ない大衆演劇場で香水の匂いを漂わせながら役者が女形で踊りを舞っている様が私は好きです。その光景に日本独特の芸能である大衆演劇の「らしさ」を強く感じます。

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逆に、女優さんの「立ち役(男役)」も大衆演劇の見どころのひとつ。ただしこれは必ず見られるとは限りません。

15時30分頃公演は終了。お客さんは一斉に帰ります。それに先駆けて座員さんが1階に降りてゆきます。

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大衆演劇の文化のひとつに「送り出し」があります。木馬館の場合だと、座長が階段の下に立って基本的にすべてのお客さんと握手をしてお礼を述べます。座員さんも道端に出てお客さんをお見送りします。(上の写真ではその雰囲気が伝わっていませんが、このあたりに座員さんがたくさんでてきます)
最近は座長が「全員と握手」をしないこともみかけるようになりました。

以上で木馬館昼の部観劇終了です。
せっかく浅草に来たのですからこの後も楽しんで帰りましょう。

この日は火曜日。毎週火曜日の夜は浅草で浪曲を楽しむことができます。
近くにある日本浪曲協会という場所で19時から「浪曲火曜亭」という会が催されるのです。

私は大衆演劇→浪曲というハシゴをすることに決めていました。

3時間ほどの自由時間ができました。浅草界隈でのんびり時間をつぶすことにします。

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浅草をぶらぶらしているとつい寄ってしまうのが、ROX(浅草六区にあるショッピングビル)の向かいにある激安スポーツウェア店「SPORTS ZYUEN」
ただでさえ安い表示価格の半額で買えたりします。舞台をやっている学生は稽古着を買うのに最適な店ではないでしょうか。
※スポーツジュエン浅草店は2017年に上野・アメ横エリアへ移転・統合しました。

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合羽橋道具街に来ました。ご存じ食器具などを扱う日本一の道具街です。浅草界隈はどうしても休日に来ることが多いのですが、合羽橋では多くの店がお休みしています。この日は平日だったので合羽橋のいろんな店に立ち寄りながら散策することとしました。

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合羽橋では業務用の食材を売っている店もあります。
私はスパイス大好きで、我が家ではスパイスの消費が速いので、合羽橋で大きい袋を買っています。
ここ合羽橋では普通のデパートで見かけない道具をたくさん見つけることができます。この日は、パン切り専用ナイフと、パン切り専用ボードを買いました。我が家ではホームベーカリーを購入したばかりだったので、ちょうどいいものが見つかりました。

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となりの墨田区に東京スカイツリーができて、浅草を散歩しているとふと目に入ります。
左に看板が見えている「来集軒」は、小沢昭一「ぼくの浅草案内」(1978年発行)で紹介されていて知った中華料理店。「東京の味。土地の人たちでいつも満員」と書いてあります。店内は芸人さん?のサインでいっぱい。営業時間が12:00~19:00(火曜日定休日)で、大衆演劇観劇とくみあわせにくいのが残念。

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浪曲は19時からですので、それまでに夕食を済ませておきます。
浅草で洋食と云えば「うますぎて申し訳ないス!」の「ヨシカミ」。
休日はお店の外に並んでいる人をよく見かけます。平日のこの時間は空いているのでしょう、ここで夕食をとることにしました。

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ハヤシライスをいただきました。とても濃厚なソース。このハヤシライスはひと匙ひと匙味わいながらゆっくり食べたい。

雷門から田原町駅に向かう界隈に日本浪曲協会があります。
毎週火曜日にここの広間で行われる「浪曲火曜亭」では、浪曲師2名が出演しそれぞれ1席披露します(1席は30分弱)。木戸銭は1,500円です。

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これが日本浪曲協会の建物。18時30分の開場時間に到着。

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ここが入口。いわゆる寄席・演芸場でないので入りずらいかもしれません。でも大丈夫、入ってしまえばアットホームな雰囲気です。扉に入るとすぐ玄関で、右手に受付があります。木戸銭を払って、靴を脱いで、畳敷きの広間にあがります。ここが会場。座布団が並んでいるので好きなところに座って待ちましょう。
お手洗いは正面の裏の廊下にあります。

実はこの広間にスゴい額が何気なく掛かっています。「桃中軒」と大きく書かれた額の署名をみると何と「孫文」の名が。孫文は中国の辛亥革命の英雄。その書がなぜここに?
腐敗した清朝政府の打倒を志した孫文は、蜂起に失敗して清朝政府から賞金付きの指名手配となりました。それからは亡命生活を送り、多くの時期拠点を日本におきました。孫文の思想に共鳴し、革命活動を助けた日本人に宮崎滔天がいました。辛亥革命の最初の蜂起が失敗した際に、革命に協力していた日本人志士の間に不和が生じて、滔天はいっとき革命活動から距離をおき、何を思ったか浪曲師桃中軒雲右衛門の弟子となりました。この後雲右衛門は義士伝があたって大人気となり、今では浪曲中興の祖と呼ばれています。孫文から絶大な信頼を得ていた滔天はその後も孫文の活動を助けました。
あるとき孫文は芝にある桃中軒雲右衛門の家を訪ねました。雲右衛門の馬鹿話に大笑いした孫文は雲右衛門に「今日は生命の洗濯をした。君は芸人の天下を取れ、我等の革命とどちらが先に成功するか競争しよう」と言ったそうです。あの額はそのとき書かれたのかもしれません。


木馬亭での浪曲ではマイクが使われます。火曜亭は、浪曲師とお客さんとの距離が近いのでマイクはありません。

浪曲2席が終わると浪曲師とお客さんとの茶話会が始まります。座布団が脇に寄せられて、大きなテーブルが中央に置かれます。浪曲師自らがお茶やお菓子を配ったりしてセッティングしてくれます。浪曲師からよもやま話を聞くことができる楽しいひととき。

このように物理的・心理的に浪曲師とお客さんとの距離の近いところが浪曲火曜亭の魅力です。

茶話会が終わって帰路につきました。これで日記を終わります。


浅草は本当に楽しい場所です。
このブログを読んでくださった若い世代の皆さん、
たまには大衆演劇を楽しみながら、休日をゆっくり浅草で過ごしてみませんか。

大衆演劇・浪曲・講談を1日で楽しむ方法 浅草「木馬館」

(おことわり)
浅草木馬館は2014年3月にリニューアルオープンしました。
本ブログは改修前の木馬館を取材した内容となっております。

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東京の大衆娯楽のメッカ浅草。
この地にある大衆演劇場が「木馬館」です。

木馬館がオープンしたのは1977年。
旅役者による芝居の興行はかつては、特に戦前はたいへん栄えていましたが、戦後の高度経済成長・娯楽の多様化・テレビの台頭などでその人気は急降下しました。
木馬館は、そんな不況のさなかに、東京大衆演劇の老舗、十条の篠原演芸場の経営者がオープンした劇場です。

浅草木馬館は成功し現在も連日多くのお客さんで賑わっています。しかし全国的にみて大衆演劇専門の劇場は苦戦をしいられており、戦後の衰退から今に至るまで「新規ファンの獲得」は大衆演劇の大きな課題となっています。

同じような栄枯盛衰をたどって今に至り、現在大衆演劇以上に深刻なファン不足に悩んでいる芸能に浪曲(=浪花節)があります。
木馬館の階下に木馬亭という寄席がありここでは関東で唯一浪曲の連続公演を行っています。
1階に木馬亭・2階に木馬館があるこの建物は日本の大衆芸能の砦といっていいのではないでしょうか。

私は2,3年ほど前から浪曲も好んで聞くようになりました。木馬亭と木馬館はどちらも私が愛着を持っている小屋であります。

戦前に浪曲と劇がミックスした節劇(ふしげき)という芸能が全国的に大流行した時代がありました(節劇はとうの昔に絶滅してしまいました)。かつては浪曲と大衆演劇は庶民目線では近しい芸能だったのでしょうが今は客層がほぼ別れてしまったようです。
大衆演劇も浪曲も大衆芸能と呼ぶにはファン層の広がりがもの足りない気がします。大衆芸能にそんなに馴染みがない人でも、ひまつぶしに映画を観に行くような感覚で、気軽に木馬亭や木馬館に足を運ぶようになればいいな、というのが私の常々の思いであります。

趣味の延長でなんとなく始めたこのブログですが、もし大衆演劇をあまり知らない方に興味を持ってもらえるきっかけになったとしたらこの上なくうれしいことです。今回は「大衆演劇と浪曲どちらも見たことがない」という方、特に舞台に興味がある若者や演劇をやっている大学生を読者と想定して、「浅草で楽しむ大衆演劇と浪曲」をレポートしたいと思います。

はじめに基本的な情報をお知らせしておきます。

 木馬亭(浪曲)
  毎月1日~7日 12:30~16:15くらい
  木戸銭2,000円(25歳以下半額!)(2019年に2,200円に値上げ)
 木馬館(大衆演劇)
  毎月最終日以外ほぼ毎日 昼の部12:00~15:30 夜の部17:00~20:30
  木戸銭1,600円(2019年に1,700円に値上げ)

くわしくはHPをご覧ください。
・東京大衆演劇協会(木馬館のページ)
・日本浪曲協会

どちらも「予約不要」です。いきなり行って大丈夫。

上記時間を見てわかるとおり、実は木馬亭で浪曲を見て木馬館の夜の部を見るというハシゴが可能です。

木馬亭定席のプログラムには講談も一席組まれています。ですから、このハシゴを行うと、1日で大衆演劇・浪曲・講談が体験できます。


以下は、2013年6月のとある日曜日に私が木馬亭と木馬館をハシゴをした際のレポートです。

木馬館も木馬亭も公演時間が3時間半、合わせると7時間にもなります。よっぽど寄席や芝居が好きでないとハシゴは疲れるでしょう。まずどちらか、興味お持ちになったほうに行ってみてはいかがでしょうか。

なお、木馬館の昼の部に行ってみたい方は、姉妹編のレポート「浅草木馬館昼の部観劇マニュアル(浪曲火曜亭付き)」をご覧ください。


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わかりやすく雷門からスタート。
門の前は休日は大変にぎわっています。

木馬亭浪曲定席の開場は12時ですから、その時間を目指して行けばいいのですが
わけあってこの日は10時40分頃雷門に来ました。

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賑やかな仲見世通りを進んで仁王門まで来ました。奥に見えるのが本堂です。

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本堂でお参りを済ませます。本堂に向かって左に向くとこのような景色。行く手が二つに分かれています。左に行くと木馬館がある「奥山おまいりまち」という通り。右が踊り衣裳屋さんがたくさんある西参道商店街につながっています。(この写真はちょっと古いです。今は木馬館の近くにできた高層の無機質なホテルが左の道の上に見えます。)

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奥山おまいりまちを進むと木馬館が見えてきます。

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1階が木馬亭。2階が木馬館。木馬館へは写真の右側から階段を上がっていきます。

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木馬館の公演時間は以下のとおり
昼の部 12時~15時30分(整理券配付10時 開場11時)
夜の部 17時~20時30分(整理券を配付する場合は11時 開場16時)

ちょうど11時で昼の部のお客さんが整理券番号順に並んで入場しているところです。

木馬館では昼の部では必ず整理券の配付があります。夜の部の整理券については、ここ数年でやり方がいろいろ変っているようですが、2013年現在私が認識している配付方法は、「土日のみ11時に夜の部の整理券を配付」です。※2020年3月現在「土日のみ昼の部開場後に夜の部の整理券配付」

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先ほどの小路の、昼の部のお客さんの入場列とは反対側に夜の部の整理券をもらうための列ができています。
昼の部のお客さんの入場が落ち着くと、係りの方が夜の部の整理券を配付します。

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9番の整理券を入手しました。といっても実はこの日私がこの整理券を私が使うことはありません。
木馬館夜の部の開場は16時で、15時50分までに整理券を持ってここに並んでいないといけません。私はこれから木馬亭浪曲定席に行きます。その終演予定が16時すぎで、木馬亭を出た頃には整理券を持っているお客さんの入場は終わっているのです。
今回は、木馬亭は見ないけど木馬館夜の部を見る人と一緒だったので、私も早く来たのでした。

夜の部の整理券は、並んでいるお客さんへの配付が終わったら1階受付付近に置かれます。夜の部を観劇する際に開場時間前に現地に着いた場合は整理券をとっておきましょう。


さて、木馬亭に入るまでに1時間くらいアキができました。
浅草では空き時間ができても、何をしようかと迷うことはあっても何をしたよいかと困ることはありません。

長い浪曲公演の前に腹ごしらえをしておきます。

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この日は和食気分だったので天丼を食すことにしました。
木馬館の近くの天ぷら屋さん「天健(てんたけ)」に入りました。
この店は平日は11:30からですが土日は11:00から営業しているのです。
写真は天丼(1,500円)とかきあげ丼(2,000円) (お椀は別料金)
早くも浅草でゴキゲンなひとときを送っている私。
※「天健」は2018年に閉店しました

若者向けの紹介記事と言っておきながら少しリッチな店になってしまいました。
若い方におすすめできる浅草の食事処はどこか考えてみました。

浅草は素敵な喫茶店がたくさんあります。
喫茶店で軽食、なんていうのが浅草らしいのかもしれません。

あまり知られた喫茶店ではありませんが、大衆演劇ファンの間では有名な店を紹介しておきます。

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「さかい」
西参道にあり、木馬館のすぐ裏手に位置する劇団御用達の店なのです。大衆演劇雑誌や写真がたくさんあって当然店内は大衆演劇色が濃いです。

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大衆演劇雑誌を販売している店も紹介しておきましょう。
浅草通りを雷門からさらに進んだところにヨーロー堂があります。店員さんが大衆演劇専門誌「演劇グラフ」に音楽情報を連載されています。
入って左手に大衆演劇関連のコーナーがあります。他にもいかにも浅草と思わせる品揃えが楽しい。
(演劇グラフは木馬館内でも販売しています)

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ヨーロー堂にあった貼紙。浅草ならではですね。

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12時を過ぎたら木馬亭へ。
寄席の雰囲気を出してくれる番組表が外に出ています。

建物入ってすぐ目の前の長机に受付の方が座っています。木戸銭を払って入場券を受け取ったら左へ。
置きチラシがたくさん置いてありますから気になるものを持っていきましょう。

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木馬亭場内後方より。自由席ですので好きなところに座りましょう。
一般的な舞台では、本番中は舞台上にスポットライトがあたり客席は暗くなります。つまり出演者からお客さんが見えません。木馬亭では本番中も客席が明るいです。浪曲師からは客席がよく見えるそうです。
私はよく木馬亭の座席で本番中にウトウトしてしまいます。そんな私もよく見えていたことでしょう(汗)。

【浪曲とは?】このブログを読む方は浪曲を見たことがない方がほとんどだと思いますので、浪曲ファン歴が浅い私が説明するのも恐縮ではございますが、簡単にご案内しておきます。
・浪曲師と曲師(三味線弾き:通常屏風の裏に隠れている)の2人1組で演じます。
・1席につき1つの演題(物語)を30分弱で演じます。
・浪曲師の発声には節(ふし)と啖呵(たんか)があってこれらを交互にミックスして口演します。 
  節というのは抑揚をつけてメロディアスに語る(というより歌う)部分です。楽譜はありません。
  基本的なメロディをもとに、伴奏する曲師と息をあわせながら浪曲師が即興で節をつけています。
  啖呵というのはセリフの部分です。
・(特に男性浪曲師の場合)独特の発声(ダミ声・胴声・甲高い声…)をします。

といった感じでしょうか。
浪曲師の世界はいくつかの一門にわかれていて、口演する演目は先代から後進に引き継がれてゆきます。浪曲師オリジナルの脚本は少ないようです。ですから現代の若い世代には馴染みの薄い昔の話が多い。定番は義士伝などの忠臣蔵もの、清水の次郎長などの侠客もので、扱う話は大衆演劇や講談と似ています。はっきり云ってしまいますと現代の「一般的な」若者が面白がるような内容の脚本が少ないと思います。
そういえば昭和の名人初代京山幸枝若が、自分で汗水たらして働いて身の回りのものを自分で買えるようにならなければ(人とのかかわりから生まれる情緒やお金の尊さがまだわからないから)浪曲の良さは絶対にわからない、ということを云っていました。
せっかく若い方へガイドしようとしているのに水を差すようなことを書いてしまいました。でも、テレビ的・即物的なすぐわかる面白さより、じわじわわかる面白さの方が、心が豊かになれるような気がしませんか。

脚本の内容ばかりで浪曲を語ろうとしてはいけません。浪曲の魅力は内容以上になんといっても浪曲師の声にあるでしょう。舞台に興味がある方であれば「どうやったらこういう声を出せるのだろう?」という興味だけで楽しめると思います。倍音が響きわたる声の心地よさ、節回しの自在なリズム感を堪能してみてください。

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途中で中入りという休憩時間があります。そこではお客さんは決まってモナカを食べます。場内後方で150円で売っています。バニラとあずきの2種類あります。

木馬亭定席のプログラムは、
浪曲3席→講談1席→浪曲1席→中入り→浪曲2席
となっています。

木馬亭の話のさいごに初心者の方におすすめの浪曲師を2名挙げておきます。
(コアな浪曲ファンの方が読んでいたらいろいろ異論を呈されそうですが、あくまで私の個人的な見解ということで容赦ください)
・国本武春師匠
  浪曲界で最も活躍している「うなるカリスマ」。テレビにもよく出演されています。
(※国本武春師匠は2015年12月に亡くなりました。ご冥福をお祈りいたします。
・玉川奈々福さん
  トークが上手でたいへん人気のある女流浪曲師です。
  
浪曲というのはワインに似ていて、知るにつれて・違いがわかってくるにつれて楽しくなってくるものです。ワインを初めて飲んだ人に「このワインうまいだろ?」とは訊かないものです。私も正直「きっと面白いから木馬亭に来てみて」という文句では友人を誘い難い。
木馬亭に来る常連さんは微妙な熟成加減も見逃さないような相当なワイン通が多く、浪曲師の方もそれに応えるべく腕を磨いています。
上記のお二方は、もちろんそういう姿勢をお持ちながらも、誰でもワインを楽しもうよというアプローチでお客さんに接してくれます。ワインを楽しむには雰囲気から。舞台の幕が開いてから口演までにちょっとした前口上がありますが、そこで客席の雰囲気を和ませつつお客さんの気落ちをのせて舞台に集中させるのがうまい。
ワインを供するレストランではマリアージュ(ワインと料理の相性)に特にこだわって料理をアレンジしている店があります。お二人も、既存の浪曲台本を独自にアレンジして、「ほら、こんな話をこんな風に口演するとおもしろいでしょ」と初心者でも楽しめるさまざまなマリアージュを生み出しています。特に奈々福さんは、お客さんがビビッドにイメージ喚起できることを心掛けてキャラクター造形・情景描写をしているとみえて、世界にひきこむのが上手。若いお客さんにとっては、とてもとっつきやすいでしょう。端的に申せば、お二方はエンターテインメント志向、サービス精神、ユーモアセンスが豊かな浪曲師なのだと思います。

初めて浪曲に行ってみようと思うけど、どの日に行ったらよいか迷っている、という方には上記の方が出演している日をおすすめしたいと思います。

初めて浪曲に行く方は事前に「忠臣蔵」の話を確認しておくとよいでしょう。(もちろん関連した外題が口演されるとは限りませんが)
というより、浪曲に行く行かないにかかわらず、忠臣蔵(赤穂義士伝)の基本ストーリーを教養としておさえておくことは大事なことかなと思います。

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木馬館夜の部の入場開始は16:00です。木浪亭の浪曲が終わるのはプログラムによると16:05ですが、実際にはもっと遅くなります。浪曲師の方がサービスとばかりにタップリとやっていると「早く木馬館に入っていい席をとりたいのにな」という邪念がよぎってしまう私は、まだゆったりと人生を楽しむという修行が足りません。

すべての口演が終わり木馬亭を出ました。
これから、その上の木馬館で大衆演劇公演の夜の部を観ます。

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まず1階で役者の名前をチェック。
この日は、関東で大人気のハードボイルド系劇団「劇団荒城」

受付で入場券を買って2階へ。

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木馬館劇場内。
青いシートがかかっている席は予約指定席です。それ以外は自由席です。
混んでくると空いている席を探すのに苦労しそうですが、木馬館では従業員の方が案内をしてくれるので心配いりません。

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座席が埋まってしまうと、このような補助席が登場します。

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席を確保したら、観劇の友(=酒とつまみ)を調達しに一時外出。

2階の階段付近にいる従業員から「外出券」をもらって外に出ます。

【ワンポイント:持ち込み】ほとんどの大衆演劇専門劇場では座席で酒を飲んだり食事をしたりできます。売店で缶ビール、缶チューハイ、菓子・つまみ等を売っています。そして飲食物の持ち込みも可能なのです。
この「飲み食い」が私にとって大衆演劇観劇の楽しみとなっています。ただし劇場内の飲食にあたっては以下の点に気を配りましょう。
・木馬館では床に缶を置くと足で蹴飛ばして倒してしまうおそれがあるので、缶はしっかり手に持っていましょう。
・飲み食いは休憩中や幕間、暗転時にしましょう。役者さんが舞台に出ているときはそれをちゃんと見るのが礼儀。芝居中に音を立てて何かを食べるなんてもってのほかです。
・食べおわったゴミは劇場内のごみ箱にきちんと分別して入れましょう。


劇場の外で、大衆演劇仲間2人と合流しました。手分けしてつまみを調達します。

買い出しが終わったら木馬館に戻って、飲み食いしながら開演を待ちます。お酒を飲んでリラックスした状態で観劇できるのが大衆演劇のいいところ。
最近はどの劇場でも飲食をする人が少なくなったように思います。木馬館でもパンを食べる程度のお客さんはちらほらみかけますが、お弁当を食べている方はほとんど見ません。

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この日は浅草寺境内近くにある花月堂で並んでジャンボメロンパンを買いました。

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浅草にはコンビニをほとんど見かけません。ちょっと小腹が減ったので何か買いたいな、と思っても適当な店がみつかりません。と思いきや、ROXというビルの地下にある「SEIYU 食品館」がそのようなニーズをすべて引き受けてくれます。しかもコンビニより安い。350mlの缶チューハイも500mlのお茶も100円以下で買うことができます。

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セキネの肉まん、シューマイも浅草の名物。


17:00に夜の部開演です。
公演のプログラムについては姉妹編のレポートでご案内します。

ここでは大衆演劇の劇団について簡単に説明しておきます。
【ワンポイント:旅役者】「現代の日本にも旅役者がいる」ことを知ったのが私が大衆演劇に興味をもったきっかけです。大学時代に小津安二郎の「浮草」を観て、また十条に住む友人から「小学校の時に1か月だけ転校してくる旅役者の子供がいた」という話をきいて、「日本の旅役者」というものが気になっていました。それから10年以上を経てたまたま大衆演劇公演を観た際にその存在を目の当たりにして、この世界にはまってしまいました。
全国には100を超える大衆演劇劇団(=旅役者の集団)がいます。そのほとんどの劇団において、劇団構成員の核は家族あるいは親族です。劇団=家庭なのです。両親と子供3人の5人だけの劇団もあります。劇団は1か月ごとに場所を変えながら全国の大衆演劇場を巡ります。もちろん子供も赤ちゃんもペットも一緒に移動します。その道を志して劇団に入門する者もいますが、多くの役者は「我が家が劇団だったから」という理由でそこにいます。公演は月末の移動日以外ほぼ毎日行います。それを毎月繰り返します。公演地によっては朝晩の2回公演。連休は年末にちょっとあるだけ。ほぼ休みなく年に何百回も舞台に立ちます。一般的に役者という職業はONの日とOFFの日がはっきりしている印象がありますが、大衆演劇の世界では芝居からフリーになる日はほぼないと思われます。それが彼らにとって当たり前の日常であり生活であり営みであるのです。大衆演劇の家庭に生まれた者は宿命として役者であり、ものごころがつく前から(3歳とか)舞台に上げられ芸を仕込まれるのです。座長になるのはたいていそういう役者さんなので本当に演技が上手い。一方多くの劇団は団員不足に悩んでいます。これだけの公演を成り立たせるには、ある程度の役者数とスタッフ数が必要なのです。けれどもこの厳しい世界に飛び込む者はあまりいない。小さい劇団の場合は飛び込んできた者は即戦力として期待される。というか、人手不足なので演技ができなくても舞台に上げさせられる。ということで、演技が超上手い役者と学芸会級に下手な役者が一緒に舞台上で芝居をする、という現象が起こり、そこがまた大衆演劇の味わい深いところでもあります。なお、木馬館に出演するのは力のある人気劇団だけなので、せりふのある役の役者さんはみんな演技が上手です。

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この日の芝居は定番演目の「三浦屋孫次郎」でした。浪曲でもおなじみです。
写真は3部舞踊ショーのラストショー。

こうして浪曲・大衆演劇のハシゴは終わりました。

一緒に大衆演劇を観た仲間3人と大衆酒場で締めることにしました。

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木馬館すぐ近くにホあるッピー通り(正式にはなんて呼ぶのでしょうか)。
大衆演劇役者御用達のお好み焼き・もんじゃ焼き屋「つくし」もこの通りにあります。
この通りは、この界隈に住んでいる大学の先輩によると「子供の頃はこの通りに近づくなと言われていた」そうですが、今はそんなこわい雰囲気はありません。

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ホッピー通りの1軒に3人で入りました。とりあえず煮込みとホッピーを頼みます。
店が終わるまで愉快に呑み語らいました。

以上で私の浅草休日日記を終わります。

最期に、繰り返しになりますが、
大衆演劇・浪曲を見たことがない方、是非一度浅草に足をお運びください。
日々の雑事を忘れて楽しい休日が過ごせると思います。
プロフィール

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Author:notarico
東京在住。大衆芸能(大衆演劇、落語、浪曲、講談等)が好きです。特に大衆演劇の世界に興味をもっています。
twitterアカウント:notarico

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