WIKIレンタル 大衆演劇探訪記 2013年02月
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ひとりぼっちの不思議な夢 「乃利武」

岡山県にある老舗旅館、苫田温泉乃利武(とまだおんせんのりたけ)を探訪しました。

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岡山駅から送迎バスに乗り込みます。
バスの側面には「お芝居と舞踊ショー」「ノリタケハワイアンプール」などの宣伝文句。

この日は7月初旬の平日でした。
送迎バスに乗ったのは私一人。この時期はお客さんが少ないのだろうかと運転手さんに訊ねると、農繁期にもあたるのでお客さんは少ないとの答え。

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自家用車もなく送迎バスも利用しないのであれば路線バスに頼ることになります。ここが最寄のバス停「二軒茶屋」
ご覧のとおり市街から離れだいぶのどかな場所です。
目的地へはここからしばらく山道を歩くことになります。

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着きました。ここが乃利武。でも老舗旅館と聞いて予想していた風情と違います。旅館というより「科学特捜隊本部」といったものを連想させる建物のつくり。

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これとか

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これとか

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この施設の全貌を知りたくなった私は、近くの高台に上がりました。
右下の家屋は民家で、その奥の緑豊かな山の懐に抱かれた建造物群すべてが乃利武です。こんなに大きな施設だったとは。特撮映画に使われる巨大な科学基地のジオラマセットを見ているかのようだ。

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施設外観からは「近未来的」な印象を受けました。といってもそれは「平成的」ではなく「昭和の人が見た近未来」です。そのイメージを助長する、なんとも昭和的な「右から左に読む」広告をつけた車が駐車していました。
「ーョシ」って読みにくいですね。

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玄関を入ってすぐ右がフロント。誰もいないので呼び出すと支配人風の方が奥から現れました。演劇グラフについているクーポン券を使って200円安く入館。
観劇チケットを受け取りました。

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館内図。
複雑な構造の大きい建物であることがわかります。

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広いロビー。でも誰もいない。まだ私以外のお客さんを見かけていません。

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館内を散歩。適当に歩いていたらすぐ迷子になってしまいそう。人気はなし。

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廊下の窓から見えたあずまや。そこかしこに秘密めいた雰囲気が。

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通路に沿って並んでいるお土産屋さん。でも誰もいない。

進んでも進んでも誰にも会わない迷宮。
銀河鉄道999で、建造物は巨大なのに誰もいないという惑星に降り立つことがあるけれど、そんな空想的な旅をしているかのようだ。惑星『昭和の未来』とでも名付けたい。

始めに外観を見たときから気になっていた右の方の高くなっているエリアに行ってみることにしました。
宿泊室が並ぶ薄暗い廊下をひとり進みます。廊下の壁にぼうっと灯る案内板がまた寂しさを誘う。

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エレベータ横の案内

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ここがハワイアンプール。訪れたのは7月初旬。ちょうどプール開きした直後のようです。ハワイアンミュージックが流れています。でも誰もいません。

↑の写真は↓の空中通路から撮ったもの。
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プールのほとりにて。ハワイアンミュージックが空に吸い込まれてゆきます。

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乃利武の奥地に巨大なお風呂がありました。
ジャングル?を模したつくり。まるでテーマパークのようです。

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滝もあります。

探訪前の自分の予想を超えた施設のスペクタクル。そして予想だにしなかったこの寂しさ。
大衆演劇を観に来たということをつい忘れそうになります。
本当にこれから大衆演劇が始まるのか?という疑念が開演時間が近づくにつれて強くなってきます。

大衆演劇場を下見することにしました。

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「お芝居と舞踊ショー」と案内された扉を入ります。

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テーブルクロスに椅子。大衆演劇場としては「お行儀がよい」体裁の客席です。

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「祭 MATSURI」の緞帳。和でも舶来でもどんなイベントにもマッチしそうなレトロモダンな意匠。

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会場後方のお酒とおつまみコーナー。あの緞帳やテーブル席との調和がまったく見られない、しかしいかにも大衆演劇場的な赤いのれん。

今日の公演予定は中野弘次郎座長率いる劇団蝶々。久々の観劇で楽しみにしていました。私はこの劇団の中野孔明という役者が好きなのです。
しかし劇団員が存在する気配はまったく察知できません。

そろそろ開場してもいい時間です。不安をかかえたままロビーに座っていると、最初フロントで会った支配人風の方がやって来て、お客さんが1名だけなので本日の公演は中止になったと私に告げました。その場で入場料の返金を受け、岡山駅まで送迎してもらいました。

大衆演劇公演が「お客さんが少ないので中止」になったという話は噂で聞いたことはありましたが、ついに自分がそれを経験することとなりました。でも全くがっかりした気分はなく不思議な夢を見ていた心地。
旅人特有の甘美な寂寥感を抱きながら、惑星を旅する者の心持ちで、私は次の大衆演劇場を目指したのでした。

(202年探訪)

銭湯+王朝ロマン+大衆演劇 「湯あそびひろば 渚の湯」

大阪府枚方市は京都との府境にあります。
京阪本線枚方市駅の1つ京都寄りの御殿山駅で下車して駅前の国道13号線を北東へ歩きます。

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大衆演劇の案内看板が目に入ってきます。

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そこからしばらく歩くとありました。
今回の探訪先「湯あそびひろば渚の湯」

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フロント。
左右に更衣室&浴場入口。

大衆演劇公演地のいわゆる「センター」(お風呂がある施設)には、入館料に観劇料が含まれる場合(圧倒的にこちらの方が多い)と、「お風呂だけ」と「お風呂+観劇」とで料金を分けている場合があります。こちらは後者になります。

お風呂だけなら一般の銭湯料金で入館できます。普通の銭湯より凝った設計(HPには「王朝ロマン」がデザインコンセプトとあります)なので、お風呂だけで来てもお得感が得られそう。一般料金よりもちょっと高い「ロイヤルコース」にすると、「ロイヤルゾーン」という特別なお風呂やサウナのあるエリアも利用できます。

サウナ好きの私は是非ロイヤルな気分を味わいたかったのですが、この日は残念なことに工事中のためにサウナが利用できませんでした。ということで岩盤浴を楽しめるコースにしました。

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1階ロビー

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券売機。食券と表示してありますが、観劇のチケットも売っています。「演劇チケット お買い求めになりフロントへ下さい。札と交換致します」とあります。
他には、生ビール400円、冷しあめ120円、モーニングセット400円、おでん400円など。

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受付にあった座席番号表。

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座席を指定すると座席券をもらえました。
裏面はどこかの駐車場の駐車券。資源の再利用です。

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この施設は岩盤浴もウリのようです。

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「アメジストサウナ」なる部屋がありました。扉に入ると中は薄暗い不思議空間。
中央に設置されているのは、「アンデス山脈標高4300mから採掘される岩塩で、数十種類ものミネラルを含み、多量のマイナスイオンを発生する」という岩塩。室内の壁も「珪藻土」という特殊な素材だそう。紫色の幻想的な空間をアメジストと表現したようです。
室温は42度。サウナというより岩盤浴に近い。

お風呂を楽しんだらいざ観劇。

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ここから劇場エリアに入ります。

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後方より。
きれいに座椅子が並べられています。

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後方は椅子席

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室内うしろの投光器。となりではソフトクリームなどを提供しているよう。

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ジュータンの「花道」

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お芝居と舞踊ショーの演目の予告貼り紙

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この日のお客さんはこの拍手棒?を持っている方が何人かいました。見なれない大衆演劇グッズ。
誰がどのような目的で販売しているものなのだろう。

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舞踊ショー

ここ渚の湯はケレン味がありながらどことなく庶民的。ネットで「湯あそびひろば」で検索してみると、全国のいろんな施設がでてきました。どれもアイデアにあふれ個性的です。
大衆演劇公演場としては渚の湯が成功事例となってほしいですね。

(2011年)

森の石松の墓と遠州の大衆演劇場を訪ねて 「ふくろいラドンセンター」

講談、浪曲、大衆演劇でお馴染みの清水次郎長伝。次郎長伝の人気者といえば遠州森の石松。
そのお墓を訪ねて東京から車で静岡県西部に向かいました。

新東名高速道路には「遠州森町」というPAがあります。その手前「森掛川IC」で高速を下りました。
そこから北へ約5km、森町にある曹洞宗の古刹、橘谷山大洞院(きっこくざんだいとういん)に石松の墓があります。

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大洞院の門前に森の石松の墓がありました。現在の墓は三代目です。

初代の墓石は、昭和10年に天竜川の自然石を使って建立されたとのこと。

その昔、神田伯山(3代目、昭和7年没)という講釈師が、「東海遊侠伝」(次郎長の養子だった天田愚庵が執筆、明治17年刊行)という文書の内容を独自にアレンジしたネタが、現在の芸能に伝わっている次郎長伝のモトとなっています。「東海遊侠伝」では石松の注釈として「三州ノ産・・・」とあります。石松の出身は三河だったのです。東海遊侠伝の別の項に、豚松という強い子分が次郎長と敵対する黒駒の門徒と戦って片目を負傷するというくだりがあります。このエピソードが合わさって、隻眼の石松が誕生したのかもしれません。
伯山の弟子のろ山が浪曲師広沢虎造にこの次郎長伝を教えて、虎造のアレンジにより有名な「石松三十石船」(「江戸っ子だってねえ」「神田の生まれよ」「スシ食いねえ」)が生まれました。

その初代の墓は彫られた字が判別できなくなるほど削り取られています。石松の墓の石を持っていると勝負運が強くなるという噂が流れ多くの者に削り取られたそうです。案内看板には「昭和28年頃から削られ始めた」と書かれていました。
昭和28年は多くのラジオの民間放送局が開局した年です。この頃からラジオでの浪曲が大ブームとなり、広沢虎造の次郎長伝が一世風靡しました。あわせて次郎長ものの映画がたくさん作られました。石松はここ森町ではヒーローのような人気者だったのではないでしょうか。

初代の墓があまりにも変形してしまい、昭和52年に二代目の墓石が建立されました。その二年後二代目はまるごと盗難に遭ったそうです。
現在の三代目は昭和54年に建立されました。

ここ大洞院は紅葉の名所として有名なようです。紅葉の時期はとっくに過ぎており人の気配はありません。しかし静かな古刹の空気に心身を預けるのも旅ならでは。気持ちよいひとときを過ごしました。


石松のお墓参りを終えて、今回の旅のもうひとつの目的である大衆演劇探訪へ。

目指す施設は、森町の南の袋井市にある「ふくろいラドンセンター」です。
「ラドン温泉+大衆演劇」の組み合わせの施設は東日本にみられる特徴ですが、ここはその最西端といえるでしょう。

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山間に点在する集落をくぐりながらカーナビを頼りにセンターを目指します。
センター近くに案内看板がありました。

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「ふくろいラドンセンター」に着きました。

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この建物の裏には池があり、そのまわりは散策コースとなっています。
「千鳥ヶ谷池は、昭和五十八年度から、遊歩道や四阿(あずまや)などを整備し、袋井市の観光名所のひとつとして、市民に親しまれています。のどかな日差しを浴び、木立ちの中を歩けば、野鳥のさえずりが聞こえてきます。池の青さや安らぎがただよう木々の緑をお楽しみください」(池のほとりの看板より)

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センターに隣接してプレハブの建物がいくつか。若めの方が出入りしているのを見かけました。おそらくここが劇団の荷物置き場か滞在場所になっているのでしょう。

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入り口に入ってすぐの靴箱。
「鍵のかからない靴箱」を見ると何かほっとした気分になります。

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フロントに向かう廊下に貼ってあったお知らせ。

冒頭に「重要なおしらせ」とあり、その横に赤マジックで「特報」と追記されています。
タイトルは「ふくろいラドンセンター閉館のお知らせ」
本文には「…本年12月末(12月25日)で閉館する事になりました。」と書かれています。

私が訪れたのが12月22日。閉館直前のかけこみ探訪でした。

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ラドン温泉施設に必ず見かける「ラドンの効能」
ラドンの説明や効能の謳い文句は施設によりさまざま。これを読むのが意外と楽しい。
「ラドンとはラジウム鉱石から発生するガスのことです」

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ロビー。左手がお土産売り場。突き当たりがフロント。

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フロントの右手が「大広間・食堂・演芸場」です。

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大広間後方より。
団体のお客さんがはいってまあまあの入り。

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大広間前方左手に厨房があります。
券売機で食券を売っています。

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花道

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大広間後方。投光機。
座布団の貸出は、2枚目から有料。

センターの最期の公演を務めるのは不二浪劇団。
お芝居では初代の瀬川伸太郎が熱演。途中で演技を止めて芝居中におしゃべりしているお客さんに静かにするようお願いする、ということが2度ありました。

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芝居終了後の口上挨拶

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浴場にも行ってみましたが予想どおり人の気配はありませんでした。
集客を「団体のバス送迎」に頼っているセンターは、芝居だけが目当てのお客さんがほとんど。私は必ずお風呂にも入ります。
突き当たりの窓際のブースがラドン温泉。大衆演劇をやっているラドン温泉施設の浴場は、だいたいこのようなつくりです。

またひとつ地方の大衆演劇場が姿を消しました。団体客に依存している他のセンターもこれからもっと経営が厳しくなるかもしれません。大衆の娯楽として存続してゆくために大衆演劇はどう変わってゆかなければならないのか、最近の私はそのことを考えることが多くなりました。

(2012年探訪)
プロフィール

notarico

Author:notarico
東京在住。大衆芸能(大衆演劇、落語、浪曲、講談等)が好きです。特に大衆演劇の世界に興味をもっています。
twitterアカウント:notarico

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