WIKIレンタル 大衆演劇探訪記 2013年01月
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雪が舞う芝居小屋の豚汁 「信州大勝館」

その日、東京は初雪が降りました。7年ぶりという大雪。高速道路は通行止め、鉄道は運転見合わせ、飛行機は欠航、普通のタイヤをはいた車が坂道を登れず何台も路上に置き去りになっている、そんな首都圏ニュースが飛び交っている頃、私は信濃路を旅していました。

早朝、東京の自宅を出た時はまだ雨。東京駅から乗り込んだ新幹線の車窓も埼玉県あたりでは普通の雨模様。軽井沢あたりだったでしょうか、気づけば外は白い世界。

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上田駅で新幹線を降りて「しなの鉄道」というローカル線のホームに移動します。

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上田駅から4駅目。戸倉駅に着きました。しなの鉄道のHPでは「信州最大の温泉郷戸倉上山田温泉」がこの駅のPRとして記載されています。

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駅前。いかにも温泉郷の玄関口。駅員さんが雪かきをしています。
歩道に降り積もった雪にはまだほとんど足跡がついていません。足首を覆うくらい深い雪を踏みながら進まなくてはなりません。トレッキングシューズを履いてこなかったことを後悔しました。

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戸倉上山田温泉は千曲市にあります。信濃川の長野県での呼称は千曲川。千曲川を越えます。

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千曲川に架かる橋を渡ればもうすぐ温泉街。傘を差していても風に煽られた雪で鞄と服はすぐに白くなってゆきます。何度も雪を払いながら川沿いの雪道を一人歩きます。あたりは深閑として。


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町の中心地に来たようです。旅館、スナック、居酒屋などがそこかしこにあります。なるほどかなり大きな温泉街です。しかし観光客らしき人、通行人もほとんどいません。人の気配といえば店の前で黙々と雪掻きしている姿がぽつぽつと。

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目指す大衆演劇場「信州大勝館」ののぼりを見つけました。

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信州大勝館をみつけました。おそらく劇場の方なのでしょう、雪掻きをしている方がいました。

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屋根の上には「ロック座」の電飾。

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裏道から見た大勝館。

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ここにも「信州ロック座」の看板が。
ロック座といえば浅草のストリップ劇場。かつてここはロック座系列のストリップ小屋だったようです。

大衆演劇ファンにとって「大勝館」といえば浅草の大衆演劇場が馴染み深いでしょう。ウィキペディアによると浅草の大勝館は、浅草ロック座の経営者の手によって2001年に大衆演劇の興行が始まったとのこと。しかし浅草大勝館は2007年に休業(後に閉館)してしまいました。信州大勝館が浅草大勝館の姉妹店としてオープンしたのが2008年1月です。

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1階に「喫茶大勝館」があります。

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劇場正面。

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「サービスタイム 舞踊ショーのみ ¥1,000」という掲示があります。芝居の後に入場すれば割引になるようです。

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入口。
「本日の外題」と書かれたホワイトボードがあります。

しかしとにかく寒い。開場時刻までしばらく時間があります。近くの温泉施設で暖まりました。

13時開演なので12時30分が開場だろうと、30分すぎに再び劇場に来ました。劇場前に人だかりができています。なんと劇団員が出迎えをしていたのでした。劇団員の方が入口ドアを開けてくれました。信州大勝館では劇団員とお客さんのコミュニケーションや「近さ」を大切にしているようです。

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入口扉を抜けると廊下。すぐ左手に受付があって突き当りが劇場入口。

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廊下を反対側から。奥右手が受付。奥左手に「喫茶大勝館」への通用口があります。

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開演時間まで喫茶大勝館で時間をつぶしてからここを通って劇場に入る方も多いでしょう。

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貸出用のひざかけがたくさんあります。

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次の土曜日に抽選会が行われるようです。その景品が陳列されていました。演歌のCD,カセット、ひざサポーター、ランタン型ラジオライトなど。

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「21日カラオケ舞踊ショー申請用紙」が置かれていました。申請書には曲名や歌手名を書く欄があり、「音源持参の方に限ります」とのことわりがありました。どうもお客様が歌って座員がそれに合わせて踊る、ということのようです。ここではいろんな趣向でお客さんとの交流をはかっているのですね。

それでは劇場内へ。

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薄暗い劇場内。ひっそりとしています。私以外誰もいないので当たり前ですが、何か地方独特の寂寥感みたいなものを感受します。

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一般的なものよりおそらく薄手の生地の幕。清楚な草花に大きな余白。大衆演劇場らしい賑やかなデザインでないところが旅情に沁みます。

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客席下手前方にストーブ席が設けられていました。いかにも「雪国の小屋」といった感じ。

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右前方より。奥に見えるのがトイレ。ここは元ストリップ小屋だったからでしょうか、単独の女子トイレはありません。一つあるトイレが男女共用となっていますが、扉に入ってすぐ男子用小便器が並んでいます。

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後方席。別々に持ち寄ったような、デザインが異なる座布団が商業的ならぬ庶民的味わいを出しています。

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横から見ると床が傾斜していることがよくわかります。

ひととおり場内を眺め終わって着席していると、たまに座員さんが劇場内を通ります。そのたびに明るく声をかけてくれました。うすら寒さと温かさの同居。これぞ芝居小屋でしょう。

12時55分、開演5分前。客席には私一人。大衆演劇観劇の一番のスリルはこういう時間帯ですね。自分以外にお客は来るのか?お客さんが3人くらいだったらどうしよう。開演直前に人がいない時の落ち着かなさったらないです。
3分前くらいに何名かお客さんが入ってきて胸をなでおろします、きっと喫茶大勝館にいたのでしょう。常連らしい地元のおばあちゃんやおじいちゃんが「〇〇さんこないの?」「〇〇さんの席とっておこう」などと話合っています。どうやら「つ抜け」はしたようです。

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第一部顔見せミニショー。

休憩を挟んで第二部お芝居。この日の外題は「恋の三度笠」
ベテラン役者はやっぱりうまい。演技はもちろんですが舞台とお客さんとの壁をなくし大きな暖かな場を生み出す術を知っています。
舞台に出始めたばかりと思われる中学生役者(女の子)も大事な役で登場。小学校学芸会レベルの演技に超棒読み。それをうまい役者がつっこんで楽しい場にしてしまうのが大衆演劇。

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第二部が終わって休憩時間。
廊下に劇団員のアンケートが張り出してありました。私は全国の大衆演劇場を訪れるたびに、何で劇団員のプロフィールがわかるものを劇場内に用意していないのだろう、と疑問に思っていました。お客さんに覚えてもらっての役者さんではないでしょうか。ここ信州大勝館でやっとそのような取り組みを目にしました。
座員の皆さんが、出身地・初舞台(の年齢)・尊敬する人・趣味・お客様へ一言などの質問に答えています。

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プロフィールを読んでいたら、劇場の方が「どうぞ」と言って豚汁を渡してくれました。喫茶大勝館で作った豚汁を無料でお客様にふるまっているようです。寒い日に暖かな豚汁。美味しくいただきました。
ここ信州大勝館はいろんなところにアットホームさを感じます。

客席に戻り、第三部舞踊ショーを待ちます。場内が暗くショー開始を告げる音楽が流れている時、私の左の掌になにかやわらかいものが押し付けられました。それはみかんでした。劇場の方がみかんを配付していたのです。「どうぞ」と言って渡すのではなく、客がどこを見ていようが早業で手にみかんを握らせる、こういうざっくばらんなお客と劇場のやりとりは都会ではほとんど味わえないでしょう。

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舞踊ショー。子役2名も登場。

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座長の女形。

舞踊ショーが終わって本日昼の部の公演は終了。座員さんは衣装を着ているので外での送り出しはできません。先ほどの廊下での送り出しとなりました。
劇場前に車が3台停まっていてそれに乗ってお客さんが帰ってゆきました。どのあたりから観にいらしているのでしょう。
雪国の劇場の経営は大変だろうなと思います。劇場のブログによると、この日劇団座長も劇場周辺の雪かきをしていたそうです。

外は傘をさすのがやっとの強い横風。寒さは増しているようです。

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駅に向かう途中で国民温泉なる施設があったので入りました。源泉かけ流し、300円。

この後帰京。日帰り長野大衆演劇探訪の旅は終わりました。

信州大勝館は2013年1月28日の千秋楽をもって閉館します。
商売を感じさせない地元に根付いた庶民的な芝居小屋がなくなってしまいます。とても残念なことです。

(2013年1月探訪)

群馬山中の謎の大衆演劇場 「桜山温泉センター」

桜山温泉センターは群馬県藤岡市にあります。
といっても関東人であってもほとんどの人はそれがどの辺にあるのか知らないでしょう。

高崎駅から高崎線に乗って南へ2駅。新町駅に着くとそこにわかりやすい看板がありました。

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この図の赤い地域の西方が多野郡、東方が藤岡市。
赤い部分の右端が現在この看板がある高崎市新町。

桜山温泉センターは県境近くにあり、すぐ下が埼玉県北部。長瀞町があるあたりです

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新町駅からバスに乗って、センターを目指します。

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目的地に近づくにつれて車窓に緑が多くなってきます。
約30分でバス亭「桜山温泉センター前」に着きました。
川と山。自然いっぱいの場所。
帰りのバスの時刻をチェックします。ご覧のとおり1時間に1本以下の運行本数。時間に気を付けなければなりません。

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バス亭から案内看板に従って山の方へ歩きます。

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見えてきました。意外にも?ちょっとしゃれた建物。それが3棟。

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離れた場所から桜山温泉センターを眺めました。山の懐に抱かれて、という表現がしっくりくる施設。
私の中の大衆演劇場「秘境劇場リスト」に登録するのにじゅうぶんな環境。

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センター敷地に「浄法寺農村公園」という緑にあふれた公園が隣接しています。

ひとしきり外観を確認していざ館内へ。

入館料 
大人1日券1,200円
大人1日券と観劇がセットで1,000円

ん?セットの方が安い?
受付の方に、観劇した方が安いんですか?と尋ねるとそうですと事も無げな回答。
この料金設定の意図やいかに。あまりにも観劇する人が少ないために、芝居を盛り上げるためにも観劇客動員をはかっているのだろうか。うーん、謎だ。
観劇料金が別途かかるセンターならたくさんありますが、安くなる場所があるなんて。

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案内図
ロビーが1階。2階に上がって左が大広間(演劇会場)、右が温泉。

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観劇セットにするとこのようなリボンとカードを渡されます。どうやら観劇申込みした人かどうかを見分けるためのものらしい。演劇会場の入口にも「誠に恐れ入ります。観劇入館でないお客様の見学はかたくお断り致します…」と書かれています。
なぜここまでして入場制限に気をつかっているのだろう。

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ここが大広間。
この日はお客さんがほとんどいなくて閑散としていました。

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アングルを変えて、右前方から左後方の眺め

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またアングルを変えて、後方の照明機材。
食事が出てくるカウンターが見えます。
各種定食、そば、うどん、ラーメン、カレーライスなどを注文できます。

開演時間が近づきました。
大広間の後方すみっこの席にに7,8人の浴衣を着た高齢のご老人が座っています。芝居を見に来たというより食事しにきたという風情で仲間と語らうこともなくめいめいが箸をゆっくり動かしています。
あと後方に1,2組のお客さんがいたでしょうか。大広間の前方にいるのは私だけ。芝居を一生懸命見ようとしているのもおそらく私だけ。

どんな状況でも手を抜かないのが旅役者のプライド。
幕が開き、お芝居が始まりました。
お芝居60分、30分休憩をはさんで舞踊ショー60分というプログラム。

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舞踊ショー。

舞踊ショーが終わって劇団員の送り出し。が、座長は出てきていませんでした。まあこの状況ではサービス精神が減退してしまうのはわかりますが…。でもやっぱり出てきましょうよ、座長。

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この大衆演劇場の欠点。それは暗転ができないこと。ごらんのとおり後方の明り取り窓にはカーテンはなく、外の明かりを常に取り込んでいます。

このあと浴場へ。温泉センターというだけあってとても気持ちいい。

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2階には立派なカラオケルームもありました。

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フロント前に売っていた服。
ピンクの服「カラオケドレス 舞台によく映えます 安い!!!! 早い者勝ちです…!! ¥4500」
黒い服「カラオケ・結婚式にステキです 上¥7500 下¥3500」 
ふだんあのカラオケルームでどのような光景が繰り広げられているのか。

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出入り口を出てすぐ右、敷地内に「ふるさと市」という地元農家が作った野菜等の直売所がありました。バスの時間までここで時間つぶし。きさくなおばちゃんから梅干しと野菜を少し買いました。自家製梅干しとても美味しかったです。

北関東の大衆演劇はどこも興味深いです。
ここもまた思い出に残る大衆演劇場でした。

(2011年探訪)

天草の自然豊かな町の温泉施設 「栖本温泉河童ロマン館」

天草。
かつて私にとって憧れの地でした。
ひょんなことから「隠れキリシタン」に興味を持ち、関連する本を収集。長崎市や平戸市、海を渡って五島列島まで隠れキリシタンの史跡めぐりをしました。当時の私にとっては天草四郎のゆかりの土地「天草」は是非探訪したいと思っていた場所。しかし長崎からの交通の便が悪く、短期の休暇しかとれなかった私は天草行きを断念したのでした。
あれから数年。隠れキリシタン熱は冷め、大衆演劇場をめぐることが好きな人になっていました。あの天草にも大衆演劇場があることに気づいたのはいつだったか。一体どんな場所なのだろうとちょいちょい思いをめぐらせていた折に、なんと熊本出張の仕事の話が。かつての天草行きたい熱がよみがえってきました。仕事ついでに天草に行ってしまおう。
かくして私は、大衆演劇場+天草四郎資料館を訪ねる旅に出たのでした。

熊本市から車で天草へ。一口に天草と言っても、実はいろんなパーツというか島に分かれています。
今回目指す「栖本温泉河童ロマン館」というメルヘンチックな名前の施設は上島にあります。上島の先が、天草市役所を置く本渡という街がある大きな下島です。

カーナビをたよりに上島を縦断する山道を走ります。目指す栖本という土地が近づいてきても周りが開けてくる気配がありません。日本の大衆演劇という文化の興味深い点は、それは大衆演劇場探訪の魅力でもありますが、市街地ではない人気のまばらの土地に忽然と公演場所が存在するところ。都会の劇場に慣れている者の目線からすれば秘境劇場とでも呼びたくなるような公演地が全国に点在しています。

ようやく栖本の町に到着。あるHPでは熊本市からここまで車で2時間10分と案内されていました。
道路沿いに民家。あとは山、田んぼ、向こうは漁港、海。美しい自然の町。静かな町。
ロマン館は海に近い場所に建っていました。

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海側から見るとこんな風景。中央がロマン館。

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アングルを変えて、山側から見た景色。右がロマン館。左は海。

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こんな静かな町のいったいどこからお客さんが集まるのでしょうか。
それはやはりバス送迎により離れた町から団体さんを連れてきているのですね。

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栖本温泉河童ロマン館はその名のとおり温泉施設。建物はキレイです。


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入口。
営業時間AM10:00~PM9:30
ここからは土足禁止。靴は下駄箱に入れます。

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フロント。

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レストラン。注文はとなりのフロントで行います。

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レストランの奥が大衆演劇場。

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後方より。

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前方より。
予約席には札が置いてあります。この日が団体さんの予約で多くの席が埋まっていました。

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舞台

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後方の椅子席。ゆったり見ることができる椅子席はやはり一番人気でしょう。予約札がついています。

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公演中の様子。

公演が終わって、団体さんは館の前で待ち構えていたバスに乗り込み地元の町へ帰ってゆきました。

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この日は天草の中心地本渡に宿を求めました。
本渡までロマン館から車で20分ほどです。
本渡の街の掲示板でロマン館の公演のポスターを見つけました。

夜ふらっと入った店は老夫婦二人で切り盛りしている居酒屋。
40年ほど前にはここ本渡にも大衆演劇場があったそう。

ここを探訪したのが2012年6月。
その後、11月をもってロマン館での大衆演劇公演は終わってしまいました。温泉施設としては営業を続けています。ひとつの土地で大衆演劇の灯が消えてしまうのはさみしいことです。
プロフィール

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Author:notarico
東京在住。大衆芸能(大衆演劇、落語、浪曲、講談等)が好きです。特に大衆演劇の世界に興味をもっています。
twitterアカウント:notarico

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