WIKIレンタル 大衆演劇探訪記 名古屋・雷鳴座
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名古屋の住宅地の中に誕生した待望の芝居小屋 「雷鳴座」

名古屋の住宅地の中に誕生した待望の芝居小屋 「雷鳴座」

名古屋は大都市である。にもかかわらず、大衆演芸の灯は近年とぼしい。
寄席は大須演芸場がリニューアルして存続したけれど、ストリップ小屋はずいぶん前になくなってしまいました。60年以上続いた大衆演劇の芝居小屋、鈴蘭南座は2016年に閉館してしまいました。

昭和30年代以降の高度成長期に大衆演劇が凋落していったのはテレビの台頭が大きかったのだと思いますが、そのテレビ業界も今後はネットメディアの隆盛で苦境にたたされることでしょう。時代はどんどん流れ、娯楽の在り方も絶えず変容しています。

令和はビッグデータとAIの時代です。我々が積極的にいろいろな世界を見て回って取捨選択することで自分の「好み」を獲得するというよりも、知らず知らずのうちに収集された個人データをもとにAIがおすすめを提示してきます。人々はスマホの画面の中で心の居場所を探し、それを容易に見つけることができます。スマホの中には心を癒してくれるアイドルや楽しいコンテンツがあふれていて、気軽にアクセスできます。多くの人々がそんな手軽さを快適と感じているでしょうし、時間に追われている人々はなおさらそれ以外の世界に目を向ける余裕はありません。
AIに身を委ねて生きていれば合理的、効率的で快適な生活が得られます。
でも、そんな生活のなかでは「生きている実感」や「癒し」を得にくいのではないでしょうか。自分でははっきりと自覚できない「満たされない」何かが心の中をぼんやり占めるのではないでしょうか。

AIがもっと高度になれば、「何か自分にとって楽しいことない?」とAIに問えば「〇〇という演劇を観劇してみたら」と提案してくれるようになるかもしれません。でもその判断は、その観劇行為が当人にとって合理的・効率的かどうか(「投じた金額と時間」に対して十分な「享楽の大きさ」が得られるか)という基準に沿ったものになる気がします。

お客さんのハンチョウ。お花をつけるという行為。客席での飲酒飲食。役者が筋とは関係なく繰り出すアドリブ。たった一曲踊るために拵える化粧。役者に向けられるカメラ。送り出しの際の触れ合い。こういう演劇の本質とずれたところ、合理性から外れたところに大衆演劇の魅力があると思っています。そしてそこにこそ現代人が失いかけているたぐいの「生きている実感」や「癒し」があるのではないでしょうか。こうした実存的な生の在り方はAIでは捉えることが難しいでしょう。

ビッグデータやAI、合理性や効率性といった現代の趨勢に隔絶された娯楽業界、それが大衆演劇であり、だからこそ良い面も悪い面も含めたうえでの大きな存在価値があると思っています。

業界の仕組みと現代の時流を考えれば、収益事業として大衆演劇の芝居小屋を経営するのは大変困難でしょう。小屋の経営者、旅芝居一座、そしてお客さん、それぞれの「心意気」が通じることでなんとか成立している業界のように思えることもあります。そこにある心意気はとても人間臭く、反合理主義的で直情的です。私が大衆演劇に得も言われぬ親しみを感じる理由はそんなところにもありそうです。

約4年間、常打ちの芝居小屋がなかった名古屋で、強い「心意気」を持った方が動きました。それが雷鳴夢想塾の葵好次郎代表。なんと市内に常打ちの大衆演劇劇場「雷鳴座」を立ち上げました。
「KANGEKI」の2021年1月号に、雷鳴座こけら落とし公演直後の葵好次郎座長のコメントが掲載されていましたので、引用させていただきます。
「今、コロナで大衆演劇は厳しいじゃないですか。公演出来る場所が減って、やりたくてもやれない。だから一つでも公演場所が増えることで、役者の皆さんが助かればっていう気持ちでやったのがきっかけです」
なんてかっこいい心意気でしょうか。名古屋の大衆演劇ファンの喜びもひとしおでしょう。

2021年9月末をもって、全国の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言が解除されました。私は大衆演劇遠征自粛を続けていましたが、待ってましたとばかりに10月早々名古屋に向かいました。

雷鳴座の最寄駅は名古屋市営地下鉄名港線の日比野駅です。名港線は金山駅から名古屋港駅を結ぶ路線。日比野駅は金山駅の隣駅です。日比野駅は名古屋駅からは20分ほどの近さ。

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日比野駅3番出口から地上へ

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ここが3番出口地上。この道をまっすぐ進み、3つめの信号を右に曲がります。

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住宅地の中に雷鳴座の煉瓦色の建物が見えてきました。

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雷鳴座
奥のマンションと手前のテナント用の平屋が合体したような建物にあります。

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入口扉

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雷鳴座内部から見た入口扉。
入口はいってすぐ右に券売機、左にカウンターがあります。

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この券売機でチケットを買います。
ちょうどこの10月から入場料の値上げがあったようです。
当日券2000円→2200円。相場よりやや高いですね。

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券売機で買ったチケットを受付の方に渡して半券を受け取り、どの席にしようかなときょろきょろしていたらスタッフの方が後ろから2列目の席をそれとなく誘導してくれました。
この時は気づいていなかったのですが、雷鳴座は後ろから2列目までより前の席は別途300円かかるのですね。

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雷鳴座ツイッター(2021年10月)より転載
この案内のとおり前から5列目まで(A~E列)までは特別指定席となり300円かかります。追加料金なしで観られるのはF・G列(うしろの2列)。ここまで指定席料金の席が多く占める劇場はあまりないですね。

10月からの料金改定といい、この特別指定席の設定といい、かなり経営にご苦労されているのだろうと想像します。
昔から存続してきた大衆演劇の芝居小屋は、建物は自前のところが多いのだと思います。おそらくこの劇場はテナントとして入っていると思いますが、テナント料の負担はかなり経営を圧迫していることでしょう。

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劇場後方より。

定式幕に
夢想塾 
塾長 都若丸
大川良太郎
     一同

と書かれています。

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劇場の壁には、都若丸座長、大川良太郎座長、葵好太郎からのお祝いの花額が飾られていました。

と、ここまで書いておきながら、私は「夢想塾」がどういった組織なのかわかっていません。
代表が葵好次郎で塾長が都若丸というだけで何やらすごそうな団体ですが、一体どのような活動を行っているのでしょうか。

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1・2列目の特別指定席はリッチな感じです。

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3列目以降は椅子+座布団

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劇場前方
それほど大きな舞台ではありません

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花道

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舞台向かって右手の奥にお手洗いがあります

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カウンターで売っていた雷鳴座せんべいを買いました。350円。

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公演中の様子

この日は長谷川武弥劇団の公演初日でした。ダブルの大入りだったそうです。

お芝居は「花笠文治」
大衆演劇の演目の中にはひたすら主役にかっこいい場面を与えるものが少なくないけれど、この芝居もそのひとつですね。
花笠文治を演じた愛京香総座長がとってもかっこよかった。

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愛京香総座長

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京未来花形と長谷川一馬花形の相舞踊

長谷川武弥劇団といえばテレビのドキュメンタリー「負けるな!泣き虫3姉弟」の印象が強いですよね。この二人の相舞踊を見るとぐっときますね。ふたりはもう立派な花形です。

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ゲスト出演の真芸座輝龍若座長 駒澤輝馬
4月から長谷川劇団に帯同しているようです。
子役時代はベビー豆丸という名でした。

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2010年(11年前)のベビー豆丸
これまで多くの子役役者の舞踊を見てきましたが、センスあるな~と思わせる子役舞踊の筆頭はベビー豆丸でしたね。

今やもう19歳。お芝居もしっかりこなしていたけれど、やはり舞踊がいいですね。
絹のように柔らかく、水が流れるようになめらかな舞踊。力みがない。雑味がない。自然体。
やはり生まれ持ったセンスがあるのだろうなあ。
何十年後、50代とかになったらシッブ~イ舞踊してそう。

長谷川武弥座長が面白くたくさん笑わせてもらいました。
大変楽しい公演でした。

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コロナ禍で恒例となった終演後の記念撮影

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夜の部終演後、闇に浮かぶ雷鳴座

ここは名古屋。夜の部を最後まで見ても余裕を持って東京に帰ることができます。

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緊急事態宣言が明けたからいいかなと思い、帰りの新幹線でひとり打ち上げ。味噌カツや手羽先、矢場とんの総菜。名古屋気分をだそうと思ったのですが、ちょっと買いすぎてしまった。私はトシをとって揚げ物をたくさん食べるのがきつくなりました。

でもこうして大衆演劇場探訪の旅に出かけられて、帰りに打ち上げできて、とても幸せでした。
プロフィール

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Author:notarico
東京在住。大衆芸能(大衆演劇、落語、浪曲、講談等)が好きです。特に大衆演劇の世界に興味をもっています。
twitterアカウント:notarico

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